無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 90〜U17 侵入者

クラスではそんな感じだったが、文芸部では相変わらずだった。ただ、違うのは僕が部長になったことぐらいだった。他には、3年生になった岡本さんはいつも通り文庫本を読み耽っていたし、そして2年生になった伊藤さんは立ち上がってぶつぶつつぶやいて歩き回ってはイスに座って何かを書きつけていた。ふたりもぼくの噂を知っていたはずだが、特に態度が変わることはなかった。というよりも、元々、話したこともほとんどなくそれほど親しい間柄でもないので、今までの距離を保っていただけかもしれない。

神楽坂さんがいなくなったから、文芸部が自分の居場所という感じはなくなってしまったが、それでも、ぼくにとって、文芸部は静かに過ごせる避難部屋だった。クラスも家も針のむしろだったので、ここが唯一の、少しでも息をつける場所だった。

ところが、ゴールデンウィーク前に、新入部員が入ってきた。

ぼくと同じ2年生で、佐伯紗奈という。髪は茶色のセミロングで、染めているのかどうかわからない、軽くウェーブがかかっている。唇にはリップを塗っているようだ。そして、メリハリのあるスタイルをしていた。

どう見ても文芸部というタイプではない。ぼくは少し、胸がざわざわしたが、人を見た目で決めつけるのはよくないことだし、ぼく自身、不良ということになっているので、彼女を受け入れた。

ぼくは今まで、ふたりの部員とは離れた机で、原稿用紙に向かっていた。ところが、佐伯さんはことあるごとに、「部長〜」と甘ったるい声で呼んでくる。そして、必要もないのに、そのたび毎にぼくのところまで近づいてくる。ついには、ぼくの隣の机に陣取り、あまつさえ、机までくっつけてきた。他のふたりの女子を見ると、ちょっと眉根に皺を寄せている気がする。
部活の終了時刻になると、何だか岡本さんと伊藤さんはいつもよりそそくさと逃げ帰る、ぼくも早くここを退散したいのだが、部長なので、最後に残って部室の鍵を職員室に置いてからでないと帰れない。やっかいだ。

ふたりになると、佐伯さんはいよいよ度を増して、甘すぎる声で話しかけてくる。

「部長はお付き合いしている人がいるんですか?」

「…」

はまっちの顔が浮かんだが、もちろん、付き合っているわけではないし、もう1年以上も会っていない。

「黙っていないで、答えてくださいよ〜」

語尾を長く伸ばす話し方が耳につく。
「まあ、いない」

「神楽坂先輩とはどうなんですか?あと、小学生の時にお付き合いしてた人がいるって聞きましたけど」

「神楽坂さんとはそんなんじゃないよ」

ぼくは、自分の声にちょっと怒気が含まれていることを感じた。

「小学生の時にお付き合いしてたという人はどうですか?浜崎さんという名前だと聞いているんですけど」

ぼくの噂を何もかも聞いているんだとわかった。

「そのことは言わないで!」

「こわ〜い」

ぼくは原稿用紙と筆記用具をさっさと黒い革鞄に投げ入れた。

「さあさ、早く帰って」

「部長と一緒に帰ります」
佐伯さんは、ぼくの跡を勝手についてきた。何だか不愉快でたまらなかった。