何だかまずい展開になったような気がしてどぎまぎする。何がまずいのかは、頭でははっきりわからないが。
「わたしも座っていい?」
「うん、いいよ。みんなもいいかな?」
ポーカーフェイスを装いながら、ぼくは言う。
みんなは、佐伯さんも含めて、頷く。
はまっちは、ぼくの隣に座る。席を詰めて座ったので、窓際から、佐伯さん、ぼく、はまっちと身体を密着させて座ることになって、ぼくは頭がくらくらする。
「初めまして、浜崎といいます。佐伯さんは塾で一回あったよね」
「岡本といいます、3年生です、文芸部です」
「伊藤といいます、部長と佐伯さんと同じ2年生です、同じく文芸部です」
ふたりは型通りの挨拶をする。さすがに、佐伯さんは貝のように口を閉ざしている。
「うえっちと部長のことを呼んでいたけど、部長とは…?」
ふだんは大人しい岡本さんが何だか目をきらきらさせて言う。
「うん、小学校からの知り合い」
こんなラフに話すはまっちを久しぶりに見た感じがする。
「もしかして、ふたり、付き合っちゃっていたりします?」
伊藤さん、なんてことを言うんだ。
「うん、付き合ってるよ」
はまっちはこともなげに言う。
伊藤さんと岡本さんが顔を見合わせる。
「来たばかりで悪いんですが、私たち、そろそろ帰らないと」
岡本さんと伊藤さんは、あわてたように席を立った。
残されたのは、佐伯さんとぼくとはまっち。
この状況で何をどうしたらいいんだろう?
あらためて、席を移動して座り直す。
岡本さんと伊藤さんが座っていたところに、はまっちとぼくが座る。
はまっちはもう氷が溶けかかったアイスティーをストローで一口飲んだ。
「佐伯さんとお話ししたかったんだ」
「えっ」
佐伯さんは、顔を見上げて驚いたように言う。
「佐伯さん、うえっちのこと好きなんでしょ?」
「…ううん、そんなことない」
佐伯さんはぼうっとどこかを見ながら言う。
「隠さなくていいのよ、わたしもうえっちが好きだからあなたの気持ちはよくわかるの」
「はい」
「佐伯さんは自分の気持ちを否定する必要なんかないわ」
「どういうこと?」
急に佐伯さんの瞳に力が戻ったような、そんな気がした。
「わたしはうえっちが好き、佐伯さんもうえっちが好き。それでいいんじゃない?」
「ええっ、でもふたりは付き合っているんでしょ?」
「それね」
はまっちは、ぼくの方に向き直り、ぼくの目をまっすぐ見つめて言った。
「うえっち、わたしの方から言ったけど、今は、まだ、付き合うのはやめようと思うの。ごめんね」
ぼくは何も言えなかった。