はまっちに会う前日の土曜日、ぼくは、お決まりの場所とは違う東村山駅近くのファミレスで、神楽坂さんと会う約束をした。
誰かに今の自分の現状を聞いてもらいたかったのだ。
自転車で市民センターの中を通り、約束の場所に向かう。
もうすっかり秋になっていて、木の葉は赤や黄色に色づいている。
すでに落葉している葉の上を自転車の車輪がカサカサ音をさせながら進んでいく。
ファミレスについて、中を見やると、黒髪ロング黒眼鏡の女性が手を振ってきた。
「こっち、こっち」
服装はますます落ち着いた大人っぽいいでたちだが、動作は年齢なりなのか、それとも年上の男性っぽいと言ったらいいのか。
ぼくは席に着くと、すぐにやってきたウェイトレスにドリンクバーの注文を伝え、ホットミルクティーを取りに行き、テーブルを挟んで、神楽坂さんの前に着座した。
「やっ、久しぶり」
この小気味良い感じは、やっぱり神楽坂さんだ。
「ご無沙汰しています」
「他人行儀はやめて、本題、本題」
「えっ、いきなりですか?」
「そのために、私を呼んだのだろう?」
神楽坂さんは薄手の黒いセーターを着ていて、否が応でもスタイルの良さが目立つ。ぼくは赤面せざるを得なかった。
ぼくはまず、佐伯さんのことを話した。
神楽坂さんは表情を変えずに、ただ「うん、うん」と話を聞いている。
そして、しばらく腕組みをして押し黙った後、こう言い放った。
「それは、何というか…あれだ…」
何だか言いにくそうだ。何なのだろう?
「共依存だな、それは」
「共依存…」
ぼくは驚きの声を漏らした。
「君は佐伯さんを救おうとすることで佐伯さんに依存している、佐伯さんは君に救ってもらおうとすることで君に依存している…」
神楽坂さんはメガネを人差し指で押し上げながら言った。
「それは悪いことなんですか」
自分の声にちょっと怒気が含まれるのが感じられた。胃が何だかぴくぴくしている。
「いいとか、悪いとか、そういうことじゃない。けれども、君は佐伯さんと地獄に落ちる覚悟はあるかな?」
「それはその…」
ぼくは言葉を濁した。
「たとえ、ふたりで地獄に落ちても、ふたりで苦しみ続けて、地獄の中でまた、新たに地獄を作り出していくだけだ」
「はい」
そう言いながら、ぼくは胸が割れたように痛くてたまらない。
「そこに幸せはない。そうだろう?」
「何がしかの満足感はあるような気がします」
「そう、君が彼女の神になる満足感はあるかもしれないが」
どうして『神?』、ぼくには、神楽坂さんの言葉は全く理解できなかったが、言っていることは正鵠を得たものであるように思われた。
「と言ったところで、たとえ、頭で理解してもやめられるものではないかもしれないが…ところで、君の理想の君は?」…