無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 103〜H23 待ち合わせ

わたしたちの街には何だか教会が多かったが、足を踏み入れたことはない。

わたしは福井君と怜と9時30分に秋津駅で待ち合わせた。

『何だか、だいぶ早く着いちゃったな』

そう思って見ると、もう怜はいた。私を見ると、微笑みながら小さく胸元で手を振る。

目の覚めるような青いワンピースを着ている。わたしの方はシャツにジーンズなので、ちょっと心配になる。教会にどんなものを着ていったらいいかは、とんとわからない。

初夏の日差しが照りつけてくる。

「幸子が教会に行くなんてどうしたのかしらと思ったわ」

「自分自身でもそう思ってる。怜は教会に行ったことある?」

「幼稚園が教会の幼稚園だったから、それで行ったことがあるけど、あまりいい思い出ではないわ」

「どんな思い出だったのか、聞いてもいい?」

「そうね、小さい子ってじっとしていられないでしょう?だから、ミサ中に、ちょっと騒いでしまったのだけれど、それで、神父が顔を真っ赤にして怒鳴ったというありふれた記憶よ」

『ありふれた記憶』という言葉が心に引っかかったが、何も言えなかった。

そのうち、約束の時間10分前ぐらいに、福井君が早足でやってきた。息を切らしていた。

何だか、上も下も黒づくめの服装で、一瞬、『忍者みたいだな』と思った。教会に行くのは、こういう服装にしなければならないんだろうか?

「遅れてごめん、ごめん、ごめん」

福井君は、ごめんを3回繰り返した。これは福井君の癖なんだろうか?

「まだ、10分前だから全然、大丈夫。遅刻なんかじゃないわ」

「よかった」

福井君は、ふぅっと息をついた。よほど、あわてていたらしい。

「こちらは、藤堂怜さん。わたしの親友よ」

福井君は、目を丸くして、怜を見る。気のせいか、顔が赤くなっている。

「福井です、よろしく、藤堂さん」

何だか、言葉がぶつ切りになっている感じがしてしまう。

「藤堂怜です、どうぞよろしく」

怜の方から右手をそっと差し出す。福井君は、慣れていない手つきでおずおずと手を握る。

怜は福井君の顔を見て、それからわたしの方に視線を投げかける。

『そういうことだったの』と言っているような気がする。そう、怜もうえっちに似ていることに気づいたのかもしれない。

私たちは、学校の先生がどうだとかこうだとかどうでもいい話を、特に福井君はぎこちなくしながら、気がつくと教会のところまで来ていた。

映画やドラマで見た教会のイメージとは違っていて、思ったよりも普通の建物という感じがする。

中に多くの人が吸い込まれていくが、白いベールをかぶっている女性もいる。みんな、フォーマルというほどではないが、それなりの服装をしていて、Tシャツとジーンズで来た自分は場違いではないのかと緊張してしまう。

入り口をくぐると、福井君は傍にある金属の器の中の水に指を浸して、十字を切る。

わたしはとんでもないところに来てしまったような気がしていた。