ミサが始まった。
でっぷりと太った神父が入ってきた。そして、何かを言うと、立ったり座ったり十字を切ったりを繰り返す、中にはひざまずく人もいる。右隣にいる黒づくめの福井くんは、忠実にそのような動作を繰り返していた。
『何だか軍隊みたい』と思った。左側の怜を見ると、みんなに合わせてはいない、ただ木製の長椅子に腰掛けて、怜は怜としてそこにそのまま座っているだけだ。
わたしはためらいつつ、中途半端にみんなの真似をしていたので、怜がいつもの怜としてそこにいるのを見て、何だかすごく恥ずかしく思った。
歌のようなお祈りが続く。
「信仰の神秘、主の死を思い、復活を讃えよう、主が来られるまで」
わたしは声を合わせなかったけれど、この部分には何だか心が動かされるものがあった。
そして、みんな着席する、福井君も着席する。
神父の話が始まる。
「『心の貧しいものは幸いです』とあります。皆さん、心が貧しいとはどういうことか、お分かりですか?
心の貧しいの反対を考えてみましょう。心が豊かということになりますね…」
何だか、学校で校長先生の話を聞いている気分になる。だんだん、眠くなってしまった。
わたしはうえっちとあの小屋にいた。
「ぼくたちは自由になった、この小屋でずっと一緒に暮らそう」
うえっちは見たことのないような満面の笑みで言う。
「もう、誰も探しに来ないといいけど」
わたしは何だか、言い知れない不安の雲を感じながら言う。
「大丈夫、もう誰もこの小屋に入ってこれないから」
「そうなの?」
「そうだよ」
うえっちは親指を突き出して言う。
わたしは自信ありげに言う、うえっちの顔を見つめる。
『よかった、これでもうここからどこにも行かなくていいんだ」
そう思った瞬間、誰かに肩を揺さぶられて、目を開けると、そこにはうえっちがいた。と思ったら、福井君だった。
「聖体拝領の時間だよ。ぼくは列に並ぶけど、一緒に来る?信者でない人も神父様の祝福を受けられるけど」
わたしは首を振った。
怜とわたしは木製の長椅子の冷たさを感じながら、神父ともうひとりの人が白いウェハースみたいなものを、列に並ぶ人に渡していくのを眺めていた。
ほとんどの人は両手で受けているが、時々、跪いて口で直接、受ける人もいる。
一通り終わると、神父が何かを言って、ミサは終わりになった。
どのタイミングでここを出ようかと思っていると、男の人が近寄ってきた。
福井君と同じく痩せているが、もっと頬はこけている、メガネはかけていなくてもう見た目で石のように真面目でかたい人だと感じられる。
「俊介、こちらのお嬢様方は?」
「学校の友達、浜崎さんと藤堂さん」
「失礼ですが、信者の方ですか?」
目が一瞬、異常な輝きに包まれた気がした。
「いいえ、信者ではありません」
わたしが答える間もなく、怜が答えた。
「そうですか、俊介、お嬢様を送って差し上げなさい。私はこの後、委員会に出るから」
「はい、お父様」
福井君はうやうやしく答えた。
わたしたちは、人々の間を抜けて、教会堂を出た。