無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 108〜U 26 面接

ぼくは、大きなテーブルを挟んで、男の人と差し向かいに座った。

「私は、塾も経営している藤堂と言います」

『藤堂?』、一瞬、頭の中で何かがカチリと音がしたが、ぼくは気にしなかった。

「この塾は特待生の制度があると聞いたのですが」

ぼくは喉がカラカラになるのを感じた。

「そうですね、事情がある方には入学金と授業料を免除する制度があります。えーと、ちょっと待って…」

立ち上がって部屋を出ていき、それからペンと何かの用紙を一枚持ってきた。

「これに記入していてくれるかな」

名前、中学校名、学年、住所など、基本的な情報を書き込む用紙だった。

「それから…」

また、言いかけて出て行った。今度は、氷と飲み物を注いだコップをふたつ、持ってきた。

「どうぞ」

そう言って、ひとつのコップを差し出した。

クリスタルガラスのようなコップに、琥珀色の液体がなみなみと注がれていた。

口を近づけると、うっとりするような香気が鼻をかすめた。

喉が渇いていたので、ごくりと飲むと、口から喉へ、喉から胃へと、爽やかで豊かな香りの液体が染み渡っていった。

『こんなに美味しいアイスティーは飲んだことがないや』

ぼくは落ち着いてリラックスしたのか、前にいる藤堂さんを見つめた。

「それで、よければ、どんな事情があるのか聞かせてくれるかな」

ぼくは、最初は大雑把に事情というものを話した。藤堂さんは、ぼくの話を繰り返しながら、途中、短い質問を挟んだ。ぼくは、知らない間に、スルスルと、学校のこと、クラスで無視されていること、授業に出ないで文芸部の部室にいること、家のこと、母のことまで、これは話すまいと思っていたことまで、話してしまった、何の不快感もなく。

『どういうことなんだろう、これって?』

「そう、それで、君はもう崖の上に追い詰められて、あとは自分が飛び降りるか、世界が滅びるしかないって気持ちに駆られているのかもしれない」

藤堂さんは、先ほどの笑顔とは打って変わって、すごく苦しそうな顔をして言った。いや、ぼくの顔もそんな苦しい顔をしているような気がしてならない。

「はい」

「でも、本当は道が続いていて、この道を前へ前へ、自由にのびのびと歩みたいと、そしてどこかで他の道と交わるのを見たいと思い、また、そのための力と能力が自分にもうあると思っている、そうじゃないだろうか?」

「はい」

ぼくは頷くしかなかった。

「実は、私は、催眠療法を研究しているのだが、今、ちょっと君に簡単な催眠をかけても構わないかな?」

ぼくは、催眠と聞いて、中1の初めに佐藤さんの家でした催眠術ごっこを思い出した。『あれはこれとつながっていたのか』

「はい」

「では、イスに深く腰かけて、両手は足の膝か腿の上に置いて、目は軽く閉じてくれるかな?」

ぼくはうなずいた。

「吸う息、吐く息に注目している間に、

あなたの意識は、私の声を聞くことができて、

あなたの無意識は、床に足がしっかりとついていることを感じることができます。

あるいは、

あなたの無意識は、私の声を聞くことができて、

あなたの意識は、床に足がしっかりついていることを感じることができます…」

ぼくは、眠りのようで眠りとも違う状態に、深く落ちていった。