うえっちと一緒に、新青梅街道沿いにあるファミレスに入った。
舌を出したあの人形がお出迎えしてくれる。
係の人に「お好きな咳にどうぞ」と言われて、「あそこの席がいいよ」とわたしをエスコートしてくれる。
『もしかして、このファミレスに来慣れているのかな、あの女の子やモデルみたいな人と』そう思うとちょっと苦しくなったが、急いでそんな思いは振り払った。今は、うえっちとデートしに来てるのだ。うえっちがそう思ってくれているかはわからないけど、少なくともわたしにとっては、これはデートなのだ。
窓際の席に向かい合わせに座ると、あらためて、うえっちの顔を見つめてしまう。
もちろん、小5の時の面影はある。あるけれども、成長した男の子の姿がそこにある。
ちょっと緊張してしまう。
ウェイトレスの人が来て、「ご注文は?」と言われてかえって助かった気がした。
ドリンクバーをふたりとも注文して、飲み物を取りに行く。
席に帰ってきて、ふたりが選んだ飲み物をテーブルに置く。
この暑いのに、なぜか、同じホットティーのカップが2つ並んでいる。どうしてだろう。合わせたわけでもないのに。
ホットティーにミルクを入れて啜る。そう言えば、わたしの部屋でうえっちに紅茶を入れて、こうやってふたりで紅茶を啜ったことがあったっけ。
「麦わら帽子、素敵だね」
声変わりしたのか、うえっちの声が低い。今頃、そんなことに気づく自分に驚く。しかも、うえっちってこんなことを言う人だっけ。
「うん、うえっちに気に入ってほしいと思って」
自分も変わっているのかもしれない。小5の自分ならこんなことは言わなかっただろう。
「白いワンピースもすごく似合ってるよ」
うえっちは言いながら、顔が赤くなっている。
「うん」
わたしも顔が火照っているのを感じた。
「あっ」
わたしは店の中で、麦わら帽子をかぶっていることの不自然さにようやく気づいて、帽子をとる。わたしを見るうえっちの目が大きくなったような気がした。
何を話したらいいんだろう。そうだ。
「わたしね、家庭部に入って、料理がんばっているの。それで、練習して、練習して、練習して、やっとオムレツがうまくできるようになったのよ」
「昔、誕生日にオムライス作ってくれたよね。あれ、美味しかったなあ」
「覚えていてくれたんだ。それでね、今度、わたしの作ったオムレツを食べてくれないかな?」
なんか、この言葉を言うのがとても恥ずかしかった。どうしてだろう?
「いいよ、はまっちのオムレツ、どんな味がするんだろう」
うえっちが『はまっち』と言ってくれるだけで、泣きそうになる。
それから、わたしたちは今までのいろいろなことを話した。心に、万華鏡のように、さまざまな感情が通り過ぎていった。
うえっちがちらっと腕時計を見て言った。
「塾の授業が始まるから、もう行かないと」
そして、わたしたちが立ちあがろうとしたその時に、わたしの口から言葉が飛び出した。
「うえっち、わたしと付き合ってください」