無意識さんとともに

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聖人A 7 始まり

小学6年生だったと思う。

教会学校の小6のクラスで、僕たちは教会堂の2階の畳の部屋に集まっていた。

来ているのは、6、7人。

ほとんどクリスチャンホームの子ばかりで、少しだけ一般の家の子も混ざっていた。

田中先生という男子大学生と吉田先生という女子大生が教えていた。

田中先生は色黒の筋肉質の、いつも笑っている爽やかな人で、吉田先生はちょっと天然の可愛らしい人だった。

田中先生は有名な牧師の息子だった。学校の教師志望で、国立大学の教育学部に通っていた。

何度聞いても同じような話をする。

「結局、教会生活が一番大事なんだよ。毎週、教会に来て礼拝に出て、献金して、それからこれから一週間、世の中に出ていく、そのペースが何より大事」

飽き飽きするぐらいの正論である、子供だったぼくにもそうとしか思えないほどの。

明らかに、教会で「リバイバルリバイバル」と熱くなっている人たちとは違っていた。

田中先生の話が終わると、子供もひとりひとり祈らなくてはならない。

僕はエリート気取りでいたから、早く自分の番が回ってこないかと思っていた。

まず、たっちゃんという子が祈り出す。

僕は、いつも、心の中でたっちゃんのことを馬鹿にしていた。

「神様、僕は本当に罪人です、頭のてっぺんから足の先まで罪しかない、丸ごと罪人です。こんな真っ黒の罪しかない、僕のために十字架で死んでくれてありがとうございます…」

たっちゃんの祈りは続く。いつの間にやら、たっちゃんは泣き出していて、周りの子も啜り泣いている。かくいう僕も、あれほどたっちゃんを馬鹿にしていたはずなのに、目から涙が噴き出している。

何だか、重い磁力のようなものが上から放射されているようで、組んだ手が離れない。

『これは何だろう?』

心の隅ではそう冷静に思いながらも…

まるで、火が燃え移るように、みんなはたっちゃんの後に続いて、次から次へと、泣きながら叫びながら祈り出す。
「自分は罪人である」と告白しながら。

そうやって、本当は10時50分に終わるはずの教会学校の小6クラスが終わったのは、礼拝もとうに終わる午後1時過ぎだった。

僕たちは何が起きたのかわからなかった。
けれど、一部の大人たちと牧師は、「子供たちにリバイバルが起こった。聖霊が下った」と言い出した。

たっちゃんは、今まではぼんやりした子だったのに、急に違う人間になったかのようだった。

「これから、学校に行く前に、教会に集まって、毎日、お祈り会をしよう」と言い出した。

これが熱狂の始まりだったのかもしれない。