無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 162 催眠的コミュニケーション

僕は家に帰ると、イエスセットを母に試してみる。なるべく、母と話したくないと思っている僕には、これは勇気がいることだった。

心に一応、聞いてみる。

『心よ、母にイエスセット使ってみて大丈夫かな?』

『大丈夫だよ、レッツトライ!』

心は親友だというけれど、何だかこの頃、ノリが軽くなってきている感じがする。

夕食の時間になっても、相変わらず、夕食はない。

母は不機嫌そうに、もぞもぞと布団から起き上がってくる。

「お母さんは布団で眠っていたんだね」

「そうよ、それがどうかした?」

急にキレ気味でビビるが練習だと思って続けてみる。

「そして、今、起きてきたんだね」

「そうだけど」

何だか、母の声がトーンダウンしたようだ。

「それで、今、ダイニングにいる」

「ええ」

怒りはもう感じられない。さあ、次が大切なところ。

「お母さんは、足の裏に床の心地よさを感じることができるのかもしれない」

母は?を顔に浮かべている。

これでうまくいったのかどうかわからないが、いつもは逆ギレされてめちゃくちゃな気持ちになることからすれば、これはこれでうまくいったと言えるのかもしれない。

『心よ、これでいいの?』

『OK』

心が親指をあげているような気がした。

僕は何だかどっと気持ちが軽くなって、夕食を作り始めた。

野菜を手際よくとんとんと切り、醤油やら豆板醤やら他の調味料を混ぜてあらかじめタレを作り、肉と切った野菜を手早く炒め、タレを回し入れ、野菜炒めを作った。

父が帰って来て、3人で食卓を囲む。

いつも、僕が何をどう作ろうと、母にダメ出しの嵐をされるのだが、今日は不思議にも何も言われなかった、これもイエスセットの効果なんだろうか?

僕は、うれしくなって、なかなか寝付けなかった。

催眠って僕が思っているよりもすごいものかもしれない。そんなすごい催眠を藤堂先生から教えてもらえるなんて、僕はめちゃくちゃラッキーなのかもしれない。

『心よ、僕ってラッキーなの?』

『そうだよ、今頃、気づいたの?』

そんな会話を心としているうちに、眠ったらしい。眠りに落ちる寸前に、はまっちの笑顔を見たような気がした。

次の日、無限塾でのチューターの仕事が終わった後、僕は藤堂先生に喜び勇んで報告した。

「すごいですね、そんなにすぐイエスセットを身につけるなんて」

「はい」

いつもは、『そんなことありません』といって謙遜するのだが、何だか『はい』という言葉がスルッと口から出てきた。

「では、次の段階に行きましょう」

「うれしいです」