それから、僕は貸し出し業務のある時はもちろんのこと、昼休み、そして無限塾でのチューターのバイトがない日は、放課後も図書室と司書室に出入りするようになった。
知らない間に、はまっちの姿を目で追ってしまう。
廊下であったあの時は大人っぽくみえはしたが、今のようではなかった。
今のはまっちは、顔も細面になっていて、静かな透明なオーラを放っているようだった。
図書委員のみんなは、僕の心を見透かしたように、僕が司書室のドアを開けて入るとすぐに言う。
「副委員長なら、書庫室にいるわよ」
「副委員長なら、もうすぐ来るわよ」などと。
はまっちのことばかり考えているようで少しばかり情けなく感じて、僕は虚勢を張ってしまう。
「いや、浜崎さんに用があるわけではないんだけど」
そうして、少しの間、なるべくはまっちの方を見ないように決心する。そうやって、違う方を見る努力を続けても、またN極がS極に吸い寄せられるようにはまっちを見やると、はまっちも自分を見ていたのか、視線がぶつかって恥ずかしくて顔をそむける。
「何だか、副委員長と上地君を見ていると、初々しいわね」
釘山さんが貸し出し業務をしながら、僕に言ってくる。
「もう、昔から知っているんだけどね」
「昔からっていつぐらいから?」
「小5から」
「もしかして、その時も好きだったの?」
「ええ、まあ…ね」
「そう、なら永遠の初恋ね」
永遠の初恋、そう言われてみると、僕とはまっちの関係をそれ以上、適切に言うことのできる言葉はない気がする。
『繰り返され続ける永遠の初恋』、僕は心の中でつぶやく。
放課後の図書室で、貸し出し業務と言っても、そんなにたくさん生徒が来るわけでもない。僕たちはぼうっとカウンターに座り、時々、本棚の整理をし、司書室でふたりの司書の先生とお茶やお菓子をいただきながら話をし、時間になったら帰る。
僕はいつもは自転車で高校に通っているが、この前、考え事をしながら自転車に乗っていて、自転車ごと川に落ちて自転車を壊してしまったので、修理している間、電車で学校に来ている。
「一緒に帰りましょう」
釘山さんにそう言われると、断る理由もない。
4階の図書室から階段を降りて、昇降口で茶色のローファーに履き替える。
窓から夕陽が真っ赤に差し込んでいる。
「何だか、お腹すかない?」
正門から出るか出ないところで、釘山さんがいきなりそんなことを言い出す。
「確かに、いい匂いだね」
正門の真ん前に、来来軒があった。
僕たちは、吸い込まれるようにして、赤地に白い文字の暖簾をくぐった。