無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 149 別れ

頭ではわかっているが、胸がしくしく痛み続ける。

ぼくたちは場所を変えて、パレードを見た。

座るところがなくて、縁石に座るしかない。ぼくは、はまっちのために、自分のハンカチをポケットから出して、縁石に敷いた。

「ここに座って、はまっち、じゃなくて浜崎さん」

「ありがとう、上地君」

『上地君』という言葉が心に突き刺さる。

「ほら、ハンカチの上を半分こずつして座ろうよ。上地君、もっともっとくっついて」

「そうだね」

そう言いながら、ぼくが動かないでいると、はまっちは距離を詰めてきて、体を密着させた。

はまっちの方を見ると、顔がすぐ近くにあって、息まで感じられる。

「…まつげ、とても長いんだね」

ぼくは浜崎さんという言葉がスムーズに出てこなかった。

「こんな近くで、そんなじっと見ないで、恥ずかしいから」

はまっちは顔を真っ赤にしている。そう、ぼくたちの体の距離は近い、でも心の距離はなんだかとても遠くなったような、そんな気がしてならないのは、ぼくが子どもだからなんだろうか?

すると、パレードはどんどん近づいてきて、目の前にやってきた。山車の上で、ミッキーとミニーが仲良く踊っている。

いっそ、ぼくもはまっちも大人になるのなんかはやめて、この夢の国で、ミッキーとミニーになって山車の上で永遠に仲良く離れずに踊っていたい、そんな気持ちに駆られた。

そんなことを思っていると、パレードはどんどん遠ざかっていく。音楽も小さくなっていく。

周りのカップルや親子連れも立ち上がってだんだんいなくなる。

ぼくたちは、なんだか、名残惜しくてそこに座ったままだった。

「そうだ、ミサンガまだつけてくれてるの?」

「つけてるよ、左足首に。ずいぶん、ぼろぼろになっちゃったけど」

「そっか、わたしのミサンガは切れちゃったんだ」

たちまち、心に黒雲が広がる。ぼくの表情を読み取ったのかどうか、はまっちは続けて言った。

「大丈夫よ。ミサンガが切れたということは願いがかなったということだから」

「願い?どんな願い?」

「内緒、いつか話すね」

はまっちはまっすぐ立てた人差し指を赤い唇に当てて、悪戯っぽく楽しそうに笑った。

唇が赤く艶やかなのは、リップでも塗っているのだろうか?

「上地君のミサンガはまだ切れていないんだね」

「うん、まだ切れそうにない」

「そう、どんな願い?」

「ぼくも内緒ということにしておくよ、まだミサンガも切れていないし」

「そうね、それがいいと思うわ」

はまっちはどこか遠くの方を見ているようだった、顔が茜色に輝いていた。時間は残酷にも過ぎて、夕陽がさしていた。

ぼくたちは、夢の国を出て、帰りの電車に乗った。

電車の中で、ぼくたちは疲れていたのか、それとも違う理由なのか、ほとんど話さなかった。

秋津駅で降りた。

ぼくはさらに電車、はまっちは徒歩で帰る。

「家まで送って行こうか?」

「大丈夫、近いから」

「そうだね、じゃあまたね、浜崎さん」

「また、塾でね、上地君」

そう言って、はまっちは改札口を出た。

後ろ髪ひかれる思いを振り切って、前に進もうとした時、後ろからはまっちの呼ぶ声が聞こえた。

「上地君!」

ぼくが振り返ると、はまっちは改札口のところに立ったままでいる。

「上地君、またね」

手をちぎれるばかりに振っている。ぼくも手を振りかえした。

「上地君、そうじゃない、うえっち、未来のいつかどこかで、またうえっちとはまっちに戻れるその日まで、さようなら」

はまっちの頬に涙が流れている。

「忘れないで、うえっち。うえっちのことが大好きだよ」

はまっちは大きな声で叫んだ。

「あの小屋で、心の小屋で、うえっちのことを待ってるから」

ぼくも泣きたかった。はまっちのところに引き返したかった。

はまっちはさらに手を振った、あの太陽のような笑顔で。

ぼくも精一杯の笑顔を返すと、向き直って、自分の道を歩き始めた。