釘山さんと、窓際の席に向かい合って座り、一番安いシンプルなラーメンを注文する。
ここは高校の目と鼻の先にあるから、うちの高校生が立ち寄ることも多いし、昼にこっそり学校を抜け出して来るものもいる。
けれど、今は、がらんとして僕たち以外は誰もいない。
こうやって、あらためて釘山さんを見ると、何だかリスに似ている気がする。
「そんなにじっと見ないでよ、食べにくいじゃない」
そう言いながらも、前髪を押さえながら、麺を啜り頬張る。
「ごめん、ごめん。ちょっと、リスに似ていると思ってさ」
「リスかあ、彼氏にもそう言われるんだよね」
食べるのをやめて、どこか遠い目をする。
「彼氏いるんだ?」
「そうよ、悪い?」
「いや、悪くないよ。釘山さんならいて当然かも」
「何それ。青春真っ只中の高2なんだから、彼氏のひとりやふたりいても普通よ」
「えっ、ふたりもいるの?」
「馬鹿、いるわけじゃないじゃない。言葉の弾みよ」
「そりゃ、そうだね」
「何だか、こうして話していると、上地君は話しやすいわね」
「そりゃ、どうもありがとう」
「それは素直すぎるかも。話しやすいけど、男性を感じないかも」
「そりゃ、ショックなこと、ずばずば言うなあ」
ふたりで同時に声を出して笑った。
「とりあえず、ラーメン伸びちゃうから片付けましょうか」
「そうだね」
僕たちは、ラーメンを片付けて、大きな仕事を果たしたようにホッと一息ついた。
お店の人の良さそうな大将は、僕たちのところにほうじ茶を持ってきて、それから厨房の奥に引っ込んで行った。そんな感じだから、うちの高校生たちは食べ終わっても長居をしている、儲ける気はそんなにないらしい。
お茶で、口の中に残る油を洗い流すと、僕たちはまた話し出した。
「上地君は、小5から浜崎さんのことをずっと好きでいるのよね?」
直球ストレートをグイッと投げ込んでくる。まっいいか。
「うん、そうだね」
素直が取り柄の僕はそのままに返事をする。
「付き合ったことはないの?」
「あるよ」
「どれぐらい?」
「数ヶ月ぐらい」
「体の関係はなかったの?」
僕は飲んでいたほうじ茶をほとんど吹き出すところだった。
「ないよ、当然。まだ中2だったし」
なんてことを言ってくるんだ、釘山さんは。
「中2でもある人はあるものよ」
「そうなんだ」
「それから、どうしたの?」
「別れた」
「どうして?お互い好きじゃなかったんじゃないの?」
「うん、そうだけど」
僕は、佐伯さんと僕とはまっちのことをかいつまんで話した。
「そりゃ、上地君が悪いわね」
「そうだよね」
「でも、きれいに別れたから、今も終わらない『永遠の初恋』なんだ」
「そうかもしれない」
「羨ましいな」
「そうかな」
「ほら、最初の集まりも、その後も、上地君と浜崎さんの視線が合うたびに、みんな何だか羨ましく思っているのよ、多分ね」
「そうなんだ」