冬休みももう目と鼻の先のある日、僕は、昼休みに、司書室の隣の書庫室でパンを食べようとしていた。いつもは、図書委員で賑わっているが、今日は誰もいない。
僕は、競争でなかなか手に入れることのできない焼きそばパンの袋を開けるところだった。
「あっ」
司書室と書庫室のドアがいつも開けっぱなしだから気づかなかった、そこにははまっちがいた。ピンクのお弁当袋を胸に抱えていた。
「ここいい?」
「うん、もちろん」
スチール製の長机の僕の隣に静かに腰を下ろした。
そして、袋からお弁当を取り出して蓋を開く。思わず気を取られて中をチラッと見ると、黄色いオムライスが見える。
僕のチラ見に気がついたのかどうか、はまっちは何か言いたそうな顔でこちらを見つめる。
「…ふたりきりでこんなところにいるのはもう久しぶりね」
「こんなところ?」
「そう、こんなところ」
あえて聞き返さなくてもわかっていた。テーブルの代わりに長机、薬品棚の代わりに本が入ったスチールの棚、モスグリーンのソファはないけれど隣にははまっち。
「わかっているよ」
「うん、わかってる、私も」
見た目はあの頃のはまっちとは違っているけれども、こうして小屋を思わせるところにふたりでいると、心の中に今も生きている小5の僕が出てきてしまいそうだ。
そして、小5の僕は小5のはまっちに会いたがっているのが痛いほどわかる。
「焼きそばパン、おいしそうね」
はまっちは、そこは今も変わらない黒目がちの瞳をキラキラさせて言う。
「食べたことないの?」
焼きそばパンはすぐに売り切れてしまうから、なかなか手に入れられない。
「ええ、それにいつもお弁当だし」
「今もお弁当作っているの?」
「うん、毎日ね」
僕たちは顔を見合わせた、次の言葉がなかなか出てこない。そうして…
「焼きそばパン、食べる?」「オムライス、食べる?」
僕たちは、ほぼ同時に言葉を発してしまっていた。
それが何だかとてもおかしくて、ツボにハマってしまったのか笑い転げた。
「何だか、小学生みたいだね」
「そう、あの頃みたい」
僕たちは、結局、焼きそばパンとオムライスを半分こして食べた。
はまっちが半分食べた焼きそばパンを、はまっちの前で食べるのは何だかとても恥ずかしかった。
そうして、お昼ご飯を食べてしまうと、僕たちは話すことがなくなってしまった、というより、本当は話すことがありすぎて話せないという方が正しいのかもしれない。
ここにいつまでもいたいと思いつつ、僕は腕時計を見て、立とうとした。
その時、はまっちが僕に言った。
「私も催眠をやっているのよ」