学校と無限塾のチューター、催眠の練習に明け暮れて、僕の高校での最初の1年間は過ぎていった。
はまっちを学校の廊下で見かけることはあるけれど、はまっちの視線を感じることもあるけれど、僕たちは会話を交わすこともなかった。
再び、桜の花が舞い散る春がやってきて、僕は高2になった。
クラス替えがあり、はまっちと同じクラスになることを少しは期待したけれど、そんな奇跡は訪れることはなかった。
そして、1年間の委員を決めるホームルーム。
高1の頃は、何だか余裕もなくて、部活はもちろん、何の委員もやらなかった。
もちろん、ちゃんと学校には行っていたが、積極的に学校の活動に関わっていたとは言えない。
学級委員から始まって、いろいろな委員が決まっていく。そして…
「図書委員をやるものはいないか?」
その瞬間、心が『やってみたらいいことがあるかもよ』と言ってきたような気がした。
僕は、知らないうちに手をあげていた。
「よし、図書委員は、上地と釘山な」
もうひとり手が上がっていたらしい、釘山さんという、髪がロングで目がクリクリしてスタイルがよくテニスをやっている女の子だった。
ホームルームが終わると、釘山さんは本を読んでいる僕のところにやってきた。
「上地君、よろしくね、図書委員」
「うん、こちらこそ」
どう考えてもスポーツ女子の釘山さんが、自分から図書委員をやることにちょっと意外に思っている自分がいた。
「何読んでいるの?」
釘山さんは、体を低くして、僕の読んでいる本のタイトルを見ようとする。シャツのボタンを2つ開けていて、その姿勢は僕にとっては目の毒だった。
「ミルトン・エリクソンの催眠の現実?」
僕は、あわてて本を隠そうとした。
「催眠やってるの?」
「うん、まあ」
「もしかして、催眠できるの?」
「少しだけ」
「そうしたら、私にやってほしいな」
いつの間にやら、僕の前の席に座っていて、イスをすごく近づけて話している。
「そうだね、今度いつか」
しばらくして、図書委員の集まりが図書室であった。
図書室に、各学年の各クラス2名ずつ、計48人の生徒が集まっているはずだ。
前に、司書の先生が2人、図書委員長と副委員長がいる。
僕は、後ろの方の席に釘山さんと腰掛けていた。
これから、図書委員の仕事について話があるらしい。
釘山さんは、小声で僕にいろいろと話しかけてくる。
「図書委員って地味な人が多いのね」
「そうだね」
僕もそんな地味な人のひとりだと思いつつ。
そうして、釘山さんの話に適当に答えつつ、後ろから図書委員たちを見回していた。
「あっ」
僕は、声をあげてしまった。皆が僕の方を振り返った。