僕たちは狭い階段を上って2階に行った。
木の梁と柱が張り巡らされ、歴史を感じさせる空間。
ふたりで窓際の席に座る。
「こうしていると、私たち、ほんとにタイムトラベラーみたいね」
「そうだね、この席にどれだけの人が、昔から座って、古き良き洋食を食べながら愛と夢と希望を語り合ったんだろうかと思ってしまうよ」
お店の人が注文を取りに来る。
はまっちはナポリタン、僕はふわふわとろとろオムライスを注文した。
「どれだけオムライスが好きなのよ」
「そうだね、はまっちのことを思うと、オムライスのことを考えてしまうぐらい」
「私のことをどれだけ思っているのよ?」
「そうだね、オムライスのことを思うのと同じぐらい」
「何それ」
はまっちは堪えきれない感じで笑った。
「ここは、ナポリタンの発祥のお店のひとつだと知っていた?」
「知ってるよ、色々調べたからね」
「それでもオムライス?」
「うん、それでもオムライス」
「どうやら、うえっちの中ではオムライスと私はセットになっているようね」
はまっちは呆れたように僕を見た。
平日のまだ早い時間だからか、お店に客は少なめだ。これから混雑してくるのだろう。
はまっちのナポリタンと僕のオムライスがサーブされた。
とろとろの卵の上にデミグラスソースがかけられ、緑のグリーンピースが何だか僕にはうれしい。一口食べると、デミの味がまず舌に来て、続いて濃厚な卵の味、そしてさっぱりしたライスの味が来る(ここはチキンライスではなく、白いご飯なのだ)。それから口の中で3つがハーモニーを奏でる。
「このナポリタン、もちもちした麺にケチャップとコンソメの味がマッチしていておいしい」
はまっちが幸せそうな顔で言う。
「このオムライスもおいしいよ。はまっちの作ってくれたオムライスほどじゃないけどね」
「そうだ、取り替えっこしない?」
「ええっ」
なんかカップルのお決まりの取り替えっこなんだろうか。
僕たちはそれぞれの料理を半分食べたところで、皿を交換した。
「うえっちもお世辞を言えるようになったのね、私の作ったオムライスよりはるかにおいしいわ」
「そんなことないよ。あれは僕の記憶にいつまでも残るオムライスだったよ」
「まあ、そう思ってくれるのはうれしいけど。うえっちへの愛情が込められていたせいかしら、ふふふ」
僕は聞いていて恥ずかしくなったので、下を向いてナポリタンを一心に食べ、グラスの水を飲み干した。
会計を済ませて、僕たちは店を出た。
冬の穏やかな昼の光が僕たちの顔を照らす。
「さて、次はどこへ連れていってくれるのかしら?」
「それはお楽しみだよ」