それから、ずっと日曜日が来るまで、私は部屋の外に行くことができなかった。ただ、閉じこもって、電気をつけることもしなかった。
闇の中で蠢く虫のように、光が怖かった。
もし、外に出たら、誰にも彼にも「裏切り者」と言われるような気がしてならなかった。
もちろん、この状態は光にも伝えることはできない。
光のメールには、一言、『ちょっと、自分を神様の前で省みたいからしばらくメールも電話もできない』と書いた。
そう書いたのに、しばらくすると、お構いなしに、光からメールがやってきて、返事をしないでいると、今度は電話もやってきたが、私は本当のことを言ってしまいそうで、すべて無視した。
来る日も来る日も、ただただ、布団に横になっていた。時折、『神様』ともはや祈りかどうかもわからないような祈りを口にしたが、相変わらず、何の返事もない。
そうして、何も食べなかったが、ついに金曜日になって、何だか無性にお腹が空いてきた。
『こんな状態でも、お腹が空くんだな』と、私は自分の体というものを不思議に思った。
ふらふらと冷蔵庫まで行き、中に入っていたとっくに消費期限が切れている魚肉ソーセージを剥いて齧り始めた。
一口飲み下した時に、頭にさっと閃いた。
『もしかしたら、もしかしたら、あのヨシコ先生なら、わかってくれるかもしれない』
そう思うと、真っ暗な、どこまで続くかわからないトンネルのはるか先の方に、かすかな光が見えるような気がした。
そんな考えが浮かぶと、私はもう居ても立っても居られず、何度も躊躇いながら、番号を押しては途中でやめながら、ついに、オアシスクリスチャンフェローシップに電話をかけた。
「もしもし、こちらはオアシスクリスチャンフェローシップです」
ヨシコ先生の声だ。
「こんにちは」
自分の声がかすれ、震えているのを感じながらも、何とか声を出した。
「智昭さん、こんにちは」
あそこの教会では、お互いをファーストネームで呼ぶ。
「あのう、話を聞いてもらいたいのですが?」
「主人なら、今、出かけているんですが」
「いいえ、牧師先生ではなく、ヨシコ先生に」
「ええっ、私に?」
ヨシコ先生は幾分、戸惑っているように聞こえた。
「そうです、できれば、お会いして話を聞いてもらいたいんです」
自分がいつの間にか、普通に話していることに自分で驚く。
「…そうですか…それなら、日曜日に。ただ、今度の日曜日は総会があるので、その後になりますが、いいですか?」
「はい」
私は電話を切った。私は急に呼吸ができるようになったような気がして、2、3回、深呼吸をしていた。