発作がおさまって、目を開けてみると、皆が私の顔を覗き込んでいて、なんだかすごくバツが悪かった。
「大丈夫?しばらく動かないでじっとしていたほうがいいわ」
私に紙袋を渡してくれた小柄な女性がそう言った。
「ヨシコ先生、食事の準備をしてもいいですか?」
誰かがそう話しかける。
「いいわよ、みんなでイスをしまってテーブルを出しましょうか」
『ヨシコ先生?』、してみると、この、光とさして変わらない歳に見える女性は牧師夫人なんだろうか?
私は、頭に霧のかかった状態でそんなことを考える。
「あなたも、落ち着いてから昼食を食べて行ってね」
「あっ、はい」
いい大人なのに、私が言える言葉はそれが限度だった。
10分か、20分して、床から起き上がり、よろよろとテーブルの方に向かうと、ヨシコ先生が「こちらにどうぞ」と言うので、勧められるままに、牧師、そしてヨシコ先生と並んだ、ヨシコ先生の隣の席についた。
みんなはあらかた食事を済ませており、大きなマグカップで食後のコーヒーを飲んでいる。
私の分の料理だけが取り分けられて、目の前に置いてある。
薄く切ったローストビーフと野菜が乗ったオープンサンドだ。
『うちの教会と全然違う、ああ、もう、うちの教会じゃないのか』
改めてあたりを見回してみると、子供、日本人だけでなく、外国人の子供、白人、アジア系、黒人といろいろな人種の子供が多い、部屋の中でも外でも遊んでいる。
「クリスチャンなんですってね」
ヨシコ先生は、コーヒーをひとくちすすってそう言った。
私は、また自分の教会の名前が出たら、発作を起こすのではないかと心臓がバクバクした。
「はい」
「イエス様を信じる友達は大歓迎よ、私も夫も」
私は、予想外の言葉を言われて戸惑った。『友達』って言ったのは聞き違いだろうか?
「ああ、友達っていう言葉ね。ここでは信徒とか言わずに、友達、フレンズってお互いのことを呼んでいるのよ。一応、夫も私も先生って呼ばれてはいるけれど、上も下もないの。みんな、イエス様を信じる友達、フレンズ、わかる?」
ヨシコ先生の口調自体が、友達みたいなくだけた口調で、私はどっと緊張が体から抜けるような気がした。
『ここならば、私はもう一度、やっていけるかもしれない』
そんなことをぼうっと考えていた。
「ここに来ている人たちはね、いろいろな教会からのはぐれもの、ドロップアウトした人が多いの。ほら、日本の教会って堅苦しいじゃない。そんな堅苦しくて真面目くさいのに疲れちゃって、彷徨ったあげくここに来るのよ」
「砂漠の中のオアシスみたいなところですね」
「えっ、あなた、看板見なかったの?ここは、オ・ア・シ・ス・クリスチャンフェローシップと言うのよ。」