無意識さんとともに

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黎明〜鬱からの回復 12 途上

(これはフィクションです。登場人物など現実のものとは関わりがありません。)

 

東京駅から中央線の快速に乗って7駅ほどの駅で降りる。

駅前は若者たちでごった返している。

カップルも手を繋いで日曜日のデートを楽しんでいる。

何だか、私たちもクリスチャンではない普通の人間ならば、今は繋いでいない手を繋いで、彼らに混じってどこかに行ってしまいたいような、そんな気になる。

でも、私と光は教会に足早に向かっている。

光は三重を朝早く出て、途中、新幹線に乗ってきたせいか、何だか疲れているような気もしたが、楽しそうでもある。

「テープで聞いていた岩本先生の教会に来れるなんて…どんなメッセージなのかな」

「今は、3代目の川辺先生だから…だいぶ違うよ」

それ以上は言わなかったし、言う必要もなかった。あえてがっかりさせる必要もない。

そんなことよりも、私は光のちょっと派手目の服装が気になっていた。

白のキャミソールに、Gジャンに、細いブルージーンズ。お化粧はほとんどしていないようだが。

どうなんだろう?

光の教会は、若者が多く、礼拝と言ってもまるでロックコンサートのような感じだ。アメリカのカリフォルニアの元ミュージシャンが作った教派の教会だ。

うちの教会は、同じカリスマ派と言っても、老人が多い。

「おはようございます、神崎兄弟」

「おはようございます、佐藤姉妹」

気がつけば、教会でお世話になっている佐藤姉妹がすぐ近くを歩いていた。

佐藤姉妹は50過ぎの、何くれとなく面倒を見てくれている女性だ。

「おはようございます」

光は何の屈託もなくそう言う。

「おはようございます、えーと、神崎兄弟の妹さん?」

「いえ…」

「妹ではなくて、彼女です」

何のためらいもなく、光が言う。

「まあ、そうなの。ずいぶん若いわね」

佐藤姉妹は、目を丸くする。

「どうぞ、よろしくお願いします」

「こちらこそ。お名前は何ておっしゃるの?」

大江光と言います」

「私は佐藤です、大江姉妹よろしくね」

ふたりは、その後も何だか、いろいろと話している。

私はなんだかほっと胸を撫で下ろした。

駅前のアーケードを通り、住宅街に入り、左手にブランコがいくつもある公園が見えてくると、もうすぐ教会がある。

光と佐藤姉妹は、私の後ろでまだ話している。

「そうなの、ネットで知り合ったの?」とか、「まあ、岩本先生のテープを聞いていらっしゃるの?」とか言う佐藤姉妹の声が耳に入ってくる。

そのうち、右手に教会が現れてきた。

教会といっても、いわゆる教会らしくはない。

コンクリートで打ちっぱなしの建物で、壁面の十字架がなければ教会とはわからないかもしれない。

教会の前には、もう人がごった返していた。