(これはフィクションです。登場人物など現実のものとは関わりがありません。)
東京駅から中央線の快速に乗って7駅ほどの駅で降りる。
駅前は若者たちでごった返している。
カップルも手を繋いで日曜日のデートを楽しんでいる。
何だか、私たちもクリスチャンではない普通の人間ならば、今は繋いでいない手を繋いで、彼らに混じってどこかに行ってしまいたいような、そんな気になる。
でも、私と光は教会に足早に向かっている。
光は三重を朝早く出て、途中、新幹線に乗ってきたせいか、何だか疲れているような気もしたが、楽しそうでもある。
「テープで聞いていた岩本先生の教会に来れるなんて…どんなメッセージなのかな」
「今は、3代目の川辺先生だから…だいぶ違うよ」
それ以上は言わなかったし、言う必要もなかった。あえてがっかりさせる必要もない。
そんなことよりも、私は光のちょっと派手目の服装が気になっていた。
白のキャミソールに、Gジャンに、細いブルージーンズ。お化粧はほとんどしていないようだが。
どうなんだろう?
光の教会は、若者が多く、礼拝と言ってもまるでロックコンサートのような感じだ。アメリカのカリフォルニアの元ミュージシャンが作った教派の教会だ。
うちの教会は、同じカリスマ派と言っても、老人が多い。
「おはようございます、神崎兄弟」
「おはようございます、佐藤姉妹」
気がつけば、教会でお世話になっている佐藤姉妹がすぐ近くを歩いていた。
佐藤姉妹は50過ぎの、何くれとなく面倒を見てくれている女性だ。
「おはようございます」
光は何の屈託もなくそう言う。
「おはようございます、えーと、神崎兄弟の妹さん?」
「いえ…」
「妹ではなくて、彼女です」
何のためらいもなく、光が言う。
「まあ、そうなの。ずいぶん若いわね」
佐藤姉妹は、目を丸くする。
「どうぞ、よろしくお願いします」
「こちらこそ。お名前は何ておっしゃるの?」
「大江光と言います」
「私は佐藤です、大江姉妹よろしくね」
ふたりは、その後も何だか、いろいろと話している。
私はなんだかほっと胸を撫で下ろした。
駅前のアーケードを通り、住宅街に入り、左手にブランコがいくつもある公園が見えてくると、もうすぐ教会がある。
光と佐藤姉妹は、私の後ろでまだ話している。
「そうなの、ネットで知り合ったの?」とか、「まあ、岩本先生のテープを聞いていらっしゃるの?」とか言う佐藤姉妹の声が耳に入ってくる。
そのうち、右手に教会が現れてきた。
教会といっても、いわゆる教会らしくはない。
コンクリートで打ちっぱなしの建物で、壁面の十字架がなければ教会とはわからないかもしれない。
教会の前には、もう人がごった返していた。