(これはフィクションです。登場人物など現実のものとは関わりがありません。)
付き合うことになったが、世間一般のものからすればずいぶんと歪なものだった。
クリスチャンとノンクリスチャン(キリスト教の信仰を持っていないものを教会ではこう呼んだ)は歓迎されない、クリスチャン同士の付き合いはむしろ歓迎されている。
結婚して、良きクリスチャンホームをつくることが期待されているのだ。
けれど、当然のこと、結婚まで清い関係を保つ、つまり、性的交渉を持たないことが求められていた。
これは、肉体を持たない天使ではない人間にはかなり苛酷なことだった。
そうして、「してはいけない」と言われれば言われるほど、そうしたくなるのが人間の性(さが)なのだから拷問のようなものだ。
私と光は、10離れていた。私たちが電話をかけ合った時は、私が30歳で光は20歳だった。
しばらくして、私たちが初めてリアルに会うことになった時、驚いたことを覚えている。
私の心に映る光は、敬虔で痩せていてちょっと伏目がちの女の子だったが、実際に、私の目に映った光の姿は、エネルギーに満ちていて女性らしい体つきの大人の女性だったからだった。
私たちは、三重のある駅の横の、原っぱというしかないだだっ広い公園の白いベンチに腰かけて話をした。
匂い立つ花のような香りに圧倒されて、私は光とずいぶん離れて座った。
ただ、私たちが会話を始めると、彼女はいつものアン・シャーリー(「赤毛のアン」の主人公)だった。
そのアンバランスに私はめまいを感じるしかなかった。
会うなり、私たちの話題は、信仰のこと、教会のこと、そして神様のことだった。
『緑が燃え上がる溢れる光の中で、そんなことを話しているカップルがこの世界にいるだろうか?』
そんなことを思ってしまう自分に微かな痛みを感じる。
そんな私のことにも構わず、光は話し続ける。
「私たちは、どうやって、神様から与えられたヴィジョンを実現していったらいいのかしらね?」
あの電話で祈った時に見た共同幻想のことを、光は神から与えられた使命か何かのように思っているらしい。
そうして、もう自分の中で、自分が偉大な伝道者になるべく青写真をつくっているようで、その青写真を私に話したくてうずうずしているようだ。
私が黙って聞いているのを見るなり、そんな話を一気呵成に吐き出す。
そうやって、1時間は話し続けただろうか。
「何だか、喉が渇いた」
そう言って立ち上がったので、私も光の後をついていく。
すると、何もないこの原っぱのような公園の真ん中に、自動販売機がひとつある。
私がお金を入れると、光はまるで子供のように、白く細い指を広げて、ボタンを同時に2つ押した。
ガチャンと音がした。
そうして、屈んで飲み物を取り出す、白いロングスカートが夏の涼風に揺れる。
「どういうこと?私が押したどちらでもないジュースが出てきたんだけど」