意識がつぶやくんです、『なんかいいことないかなあ』って。
意識というものは、偉そうに大人ぶったとしても、本当は、自分は何もない貧しい惨めな子どもだと思っているみたいなんです。
そうして、自分のうちには、これっぽっちも何も価値あるものはないと信じ込んでいて、だから外に外に、なんかいいこと、いいものを求めるんです。
そうやって、外にいいこと、いいものをどんどん、次から次から求めては手にすることもあるのですが、いっこうに満たされることがないのかもしれません。
ぽっかり大きな穴が開いていて、どんなに素晴らしく見える何を放り込んでも、その穴が埋まって満足する気配が見えないのです。
それでも、意識は思うんです。
『穴が開いている以上、穴は埋めなきゃ』
それで、自分の時間、エネルギー、人生、命を費やして、さらにさらに穴を埋めようとするのですが、穴はそれらを吸い込むばかり、まるでブラックホールのようです。
さんざん、そんなことを繰り返したあげく、意識はもう疲れ果ててしまう、そんなこともあるでしょう。
そうして、自分の存在、丸ごと、その穴に、深淵に投げ出してみるのかもしれません。
穴は真っ暗、何もないのですが、どんどん、吸い込まれてみると、向こうに微かに光が見えます。
手も足も投げ出して、吸い込まれるままに、微かな光の方へ、光の方へ、流されていくと、出口から多量の水が吹き出していて、私も一緒に流れ出していくんです、光のかたまりの中へ、広大な海へ。
そう、海というのは、太陽の光を水面が反射してキラキラと光っているんです。
そうして、自分の手や足を見ると、自分の体も光っているんです。
自分の内側から、自分自身も小さな太陽のように、光を放射しているんです。
『この光は、前からあったものなのかな?』
自分に尋ねてみたくなることもあるでしょう。
『そうだよ、君は前から光っていたんだよ』
誰かが、自分に似ている、でもずっと静かな声で答えます。
『君は何をしてもいいんだよ』
と、声がそっと私の肩を押してくれるようです。
私は、おそるおそる、自分の心の中をのぞきこみます。
あの穴は?
穴があるんです、でも、穴は何もかも吸い込むブラックホールではなく、何もかも放出するホワイトホールだったんです。