無意識さんとともに

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黎明〜鬱からの回復 10 導火線

(これはフィクションです。登場人物など現実のものとは関わりがありません。)

光は目を閉じた。私は、光の唇にそっと口付けた。

それから、私たちはカラオケで会うたびにキスをした。キスはだんだんと激しいものになっていったが、もちろんそれ以上のことになることはなかった。

けれど、私は自分のうちに抗い難い衝動があるのを感じた。

そういう衝動があることは、当然のこと、前から知っていたが、それでも光という生身の恋人が現れることによって、それはそよかぜから暴風に変わったようだった。

私はその暴風を自分の中に何とか抑え込んでいようと、必死で祈った。

クリスチャンでない人間から見たら馬鹿らしいことに見えるかもしれない。

けれど、クリスチャンにとっては、結婚するまで性的交渉を持たないことは死守すべきことだったのだ。

キスという導火線によって抑えられないものであるならば、私はキスしないでおこうと思った。

でも、会うたびに、何も言わなくても光は目を閉じて待っている。

そうすると、私の決意など砂で作った堤防のようにあっけなく崩れてしまう。

そうして、私たちは長い、長いキスをする。

気のせいか、私だけでなく、光の呼吸も乱れているような気がする。

女性にも性欲があるのだろうか?

私は女性は、男性よりも神に近い存在だと考えていたから、そんなことを考えるのは光に対する冒涜だと首を振った。

そして、単に愛の証として一度キスしただけではなく、キスに耽溺する自分を恥じ、神に対して心臓を切り裂くような罪意識を感じるようになった。

東京から三重へ、三重から東京へ、私たちは何度、往復して、どれだけキスを重ねたことだろう。

そうして会えない時には、電話やメールがどんどんと絶え間ないものになっていく。

何だか、光の様子も、最初の頃とは変わってしまったような気がする。

ラインでメッセージが来る。

「今、何しているの?」

「友達と会っているよ」

「友達って?」

「教会の友達」

「そっか」

「男性だよ、心配しないで」

「そっか」

「光は三重にいて会おうとしてもすぐには会えないけど、友達はすぐ会えるんだね」

「また、すぐに行くから」

「わかった」

今、考えれば、単純な嫉妬なのだが、私は伝道者になろうというクリスチャンがそんな嫉妬なんて持つはずがないと思っていたのかもしれない。

いや、持っていたとしても、信仰で乗り越えるべきだとさえ、思い込んでいたのかもしれない。

これが、後になって大変なことを引き起こすとはその時には思いもよらなかった。