無意識さんとともに

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AとBとC 第二回〜学生ホールにて

A1C

学生会館は、左手にある灰色のコンクリート剥き出しの無骨な建物だった。カツカツカツと、靴音を響かせて中に入ると、蛍光灯がついているが、ちょっと薄暗い感じがした。

 

三階に学生ホールがある。といっても、安っぽい大きめのテーブルと椅子が無造作にたくさん並べられているだけのだだ広い部屋だけのことで、ガヤガヤと学生たちの喋る声が反響していた。そして、そんなに広い部屋なのに、青年特有の匂い、うまく言葉を言い換えれば青春の匂いというものでむせかえっていた。

 

Hはそんな部屋のあえて先頭の席に陣取っていた。私の姿を見ると、「おっ、来ましたね」とやや甲高い鼻にかかったような声で言った。

 

テーブルには、茶色がかった表紙にセロハンがかけている岩波文庫が広げられ、そのページを左手で押さえながら、右手に箸を持ってゾッとするような粘着性の物体、つまり納豆を口に運んでいるという、サーカスの曲芸師も羨むほどのことをしているのだった。「もうすぐ、みなさん、やってきますよ。」私は胸の中に蝶が羽をはためかせている感じがした。