無意識さんとともに

https://stand.fm/channels/62a48c250984f586c2626e10

AとBとC 第二十四回〜夢想1

ABC1

 

そうやって、私は大学に通い、プラトンアカデミアの面々と時間を過ごし、また日曜日には教会に通っていた。

心の内には絶えず大きな矛盾があり、時限爆弾を抱えているようだったが、大学でも教会でも楽しいことがなかったわけではない。

いろいろな楽しい思い出があり、私の記憶を色鮮やかに縁取っていった。

けれど、内面では、絶望の下り坂と高揚の上り坂の絶えることのないジェットコースターに乗っており、そこから決して降りることはできなかった。

 

そんなある日、朝からとても怠くて大学に行けそうもなかった。フランス語文法上級の授業は第一限にあり、もうすでに何度も欠席しており、このままでは単位を落としてしまうことは目に見えていた。自分の能力を過信してそんな授業を取ってしまったことを後悔したが、後の祭りだ。同じ授業を取っているMはアテネフランセにも通い、自分よりも遥か先に進んでいる。私は、どうしようもない焦燥感と孤独を感じた。

 

そう思いながら、大学の授業に出ない罪悪感を誤魔化すために、あるいは決して終わることのない牢獄から出るために、目の前の本に集中しようとした。

 

セーレン・キルケゴールの「哲学的断片」。

 

哲学者は変人の集まりだが、キルケゴールはさらに変人中の変人なのかも知れない。

キルケゴールは、アンデルセンと同時代のデンマークの人で、キリスト教実存主義者として有名だ。客観的な真理ではなく、「自分がそのために生き、そのために死ぬような主体的な真理」を主張した。

 

キルケゴールの呪いというものが囁かれていた。何でも、日本でキルケゴールを研究した研究者たちは、若くして夭折しているということだった。

 

大学のキルケゴールのゼミは、ほとんど女子ばかりだった。

 

彼は、レギーネオールセンというかなり年の離れた少女に一目惚れして、結婚を申し込み婚約にこぎつける。

ゼミの教授は、10代のレギーネに宛てた手紙について教えてくれた。何でも、ものすごく長い難解な哲学的な考察の後、最後にこう書いてあると言う。「以上、述べたことは君はわからないだろうが、僕が君のことを愛していることは本当だ。信じてくれ。」

 

しかし、キルケゴールは、後に一方的にレギーネとの婚約を破棄する。

さらに、誰が書いたかわからない「誘惑者の日記」というものが出版されて、キルケゴールは、本当はプレイボーイであり、レギーネを誘惑していたということが暴露される。

 

だが、この著者は実はキルケゴール自身だったのだ。