その後、ぼくたちはカリブの海賊に乗った。カリブの海賊は乗っている人を怖がらせる仕掛けがいくつもあるのだが、はまっちは当然、怖がることということはなく、かえって喜んで笑った。
そうして、中学生にも手が届く値段の手頃なパスタを食べ、スターライトマウンテンにも乗った。目の前に広がる光の奔流と激しいアップダウン、ぼくはこういう乗り物に弱くて、降りる時、終わったかとホッとした。
「うえっち、もう1回、乗ろうよ」
「えっ」
「もう1回乗らない?」
はまっちは、ぼくの顔を覗き込みながら、無邪気に言う。
「もう1回ね」
そう言われると断ることもできず、ぼくは頷くしかなかった。
結局、スターライトマウンテンには3回乗った。
「大丈夫?」
「全然」
ぼくは思い切りの笑顔で答えたつもりだが、笑顔になっているのかどうか。
「わたしの我儘に付き合ってくれてありがとう」
「はまっちの我儘に付き合わせてもらってありがとう」
そんな言い方をすると、はまっちはぶっと吹き出した。
「うえっち、少し休まない?」
「うん、それがいいと思うよ」
「ちょっと待っててね」
「うん」
はまっちは駆け出して人混みの中に姿を消した。
『どこに行ったんだろう?』とぼくは何だか心細くなった。こんなことぐらいで心細くなるんだから、これから先はなどと情けないことを考えている自分がいるのに気づいて、驚いた。
「待った?はい、これ?」
はまっちは持っていた2本のうち、1本を渡してくれた。
「これって、チュロス?」
「そう、わたしの我儘に付き合わせたお礼。ほんとは、ただうえっちと一緒に食べたかったんだけどね」
「ありがとう、はまっち」
「あそこのベンチに座って食べない?」
ぼくたちは、ダークブラウンのベンチに座った。ぼくの右にはまっち。
目の前に多くの人が楽しそうな様子をして通り過ぎる。ぼくたちは、しばらく、ぼうっとただその姿を眺めていた。
「いつか、また、ふたりでここに来たいね」
「そうだね」
「でも、その時はふたりではなく、3人だったりして」
「よせよ」
そんなことがあるのだろうか?そんなことがあるとして、それは一体、どれぐらい先のことなのだろうか?
「そうだ、これからは呼び方を変えようか?」
「どうして?」
ぼくはショックを感じた。
「だって、わたしたち、友達に戻って大人になるんだもの」
「…」
「これからは、うえっちではなく、上地君と呼ぶことにする」
「じゃあ、はまっちを浜崎さんと呼ぶことになるということ?」
ぼくはますます情けないことに、目の端に涙が溜まってきているようだ。こらえなくっちゃ。
「練習、練習。上地君」
「浜崎さん」
急に、はまっちがどこか遠くに行ってしまったような気がして、胸が激しく痛む。
「そんな顔しないで、わたしも決心が揺らいじゃうから」
「わかった」
その時、賑やかな音が聞こえてきて、人の群れがそちらの方に流れ始めた。
「パレードが始まったみたいよ、行きましょう、上地君」
ぼくは答えることもできずに、はまっちの後を見失わないようについていった。