「ここは魔法の小屋なのかもしれないわね」
「そうだ…ね」
夢の内容をお互いに打ち明けると、またもやぼくたちは同じ夢を見ていた。
『いったい、どういうことだろう?』、そう思いはしたが、何だか自然すぎてだんだん疑いも融けていった。
ただ、「それぞれの人生を歩む」とあの男の人が言った言葉だけが気にかかっていた。
今も、胸にかすかな痛みがあって、あの虹色に輝くボールがそこに埋め込まれているように感じた。
それは、はまっちも同じなのかもしれない。
「今日は日曜日だよね」
「うん」
ぼくはぼうっとしていたので、曖昧な返事をした。
「楽しいことしない?」
「楽しいことって?」
「遊園地行かない?」
「遊園地⁉︎」
頭の中に、小さい頃、遊園地に連れて行かれて、自分の乗りたいものには乗せてもらえず、親が乗せたいものに無理矢理に乗せられて苦しいだけだった記憶が心をよぎった。
「無理ならいいけど」
はまっちはぼくの一瞬の表情を捉えたのか、そんなふうに言った。
「いいよ」
でもはまっちとなら、ぼくが好きな女の子となら、全く違うのかもしれない。
「じゃあ、善は急げね」
「ええ、こんなに早く行くの?」
「人がいないうちにね」
ぼくたちは昨日の食べかけの唐揚げ弁当を急いで食べた。さらに冷たくなっていたが、何だかとても美味しい気がした。それから、サンドウィッチをキャンバスバッグに入れた。
本当は、隣の町に遊園地があるのだけれども、誰かに会わないように、電車で40分ぐらいかかるところにある遊園地に行くことにした。
「お金は大丈夫?」
「まかせなさい」
「いつか、ぼくの方がおごらなくなくちゃ」
「期待してるわ、うんと高いものを考えておくね」
はまっちは無邪気に、顔をキラキラと輝かせながら笑った。昨日の夢の効果なのだろうか。気がつくと、ぼくも笑っていた。
昨日、通った道を駅まで歩いて、ぼくたちは駅で「豊島園行き」という電車に乗った。まだ、早かったから、電車の中は人がまばらで、ぼくたちは並んで座ることができた。
駅に着いて遊園地の入場ゲートのところに来ると、ここでも人は少なかった。
チケットを買い、ゲートをくぐった。
「何に乗る?」
「フライングカーベット」
「げげっ、あの絶叫系のやつ」
「そう」
そう言いながらもぼくも一度乗ってみたかった。そういう乗り物に乗るのは許されなかったから。
乗りながら、はまっちは両手をあげて叫んでいた。ぼくは、最初こそは何も声をあげずに縮こまっていたが、はまっちに背中をバンバン押されて、自分も声を出した。こんな大声を出すことは生まれて初めてだった。
「楽しかったでしょ?」
「なんかスッキリしたよ」
「よかった、じゃあ、もう一回」
結局、フライングカーペットには3回乗った。そのたび毎にはまっちは歓声をあげていた。ぼくも歓声をあげていた。
その後、ジェットコースターに乗った。
「うえっちは何に乗りたい?」
「えっいいの?」
「当たり前じゃない」
「うーん、観覧車とかお化け屋敷とかミラーハウスとか」
「変なこと考えていない?」
「えっ何?」
顔が赤くなった。
「冗談よ、冗談」
はまっちは背中をまた叩いた、けれどさっきより優しく。