無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 25〜わたしたちの誕生日

小屋に着くと、テーブルにケーキを置いて、一本だけのろうそくをつけて、部屋の明かりを消した。

暗闇に赤いストロベリーの載った純白のケーキが浮かびあがる。

その向こうに微笑んでいるはまっちの顔が見える。

「今日はわたしたちの、わたしたちだけの誕生日よ」

ぼくは、今日起こったことを思い返してまた頬を赤らめた。

「ハッピーバースデーの歌うたおうよ」

「うん」

Happy birthday to you,

Happy birthday to us,

Happy birthday, dear はまっちandうえっち

Happy birthday to us.

ぼくにとってはこの歌を歌うのも初めての経験だった。

「さあ、いっせのせでろうそくを吹き消すのよ」

ぼくはうなずいた。

「いっせのせ」

ぼくたちは同時に、こちら側と向こう側からたった一本のろうそくを吹き消した。

一瞬でろうそくの火が吹き消えて、暗闇に白い煙が見えた。

「さあ、お願いをひとつ言うのよ」

「誕生日ってそんなことをするんだっけ?」

「他は知らないけど、わたしたちはね」

「わかった、ぼくからでいい?」

「いいわ、うえっちのお願いって何?」

「うーん」

ぼくはちょっとためらった。

「世界征服とか?」

はまっちの笑い声が聞こえた。

「もう、そんな子どもじゃないよ」

自分で言ってはっとした。

「じゃあ、何?」

はまっちもちょっと真剣な声になった。

「はまっちがよければ、ずっとはまっちといたいな」

「…それってどういう意味?」

「そのとおりの意味だよ」

「そのとおりの意味に受け取っていいの?」

「うん」

次から次へとすごいことをしたり、言ってしまう自分が少しこわくなった。

「今度ははまっちの番」

「わたしはね」

「うん」

「何も特別なことが起こらない退屈すぎる毎日…かな」

「なんだそれ」

口ではそう言いながらも、はまっちの言いたいことがわかっていた。

「そして、そういう退屈すぎる毎日を幸せに一緒に送ってくれる人がいたらもっといいかも」

「うん」

「うえっちがその相手になってくれるの?」

「いいよ」

「軽すぎるわ、何の特別なこともないつまらない毎日よ、いいの?」

「いいよ、ぼくの家は特別なことだらけだから」

つい、口がすべってしまった。

ぼくたちの間に、何とも言えない悲しい空気が流れた、傷口から血が噴き出すように。

「眠りましょう」

ぼくは席を移動してはまっちの横に座り、テーブルの上に伏せって、一枚しかないオンボロの毛布を二人の肩にかけた。お互いの手を握りながら、眠りに落ちた。