その後、公園の真ん中にあるブランコが空いたので、ぼくとはまっちはブランコに移動して腰かけた。はまっちの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。ぼくはその顔も美しいと思った。そっとハンカチを差し出すと、顔を覆うように涙を拭いた。
「恥ずかしいな」
「恥ずかしいことなんてないよ、ぼくもおんなじだもの」
「そっか」
「そうだよ」
「そう…うれし涙が出過ぎちゃった」
「うん」
はまっちはちょっとブランコを揺らした。ぼくもはまっちに合わせて揺らした。
「いつも私の誕生日になると…パパとママが決まって喧嘩をするの」
ぼくは何も言わないで、はまっちを見つめてうなずいた。
「今日もおそらくそう」
「それで、ある時、聞こえちゃった。パパが『お前が幸子を産んだから喧嘩になる、あんな奴産まなかったら、幸せに暮らしていたんだ」というのが」
はまっちは顔をしかめて、苦しそうに息をした。ぼくもどうしたらいいかわからずに同じように息をした。そうしたら、心臓が破けてしまうように痛くなった。
「でも、今はうえっちのプレゼントを、素敵な絵と詩をもらったから、きっと大丈夫」
ぼくは体をはまっちの方に傾けて、手を握った。
はまっちは再び、体を震わせ、嗚咽し始めた。
「うれしくて、悲しくて。でも悲しくて、うれしくて」
ぼくの渡したハンカチでまた顔を覆った。
「いいんだよ、それで」
今度は、ぼくがはまっちの背中をポンポンと叩いた。それからさすった。
そうして、ブランコをもう一方の手で揺らした。
「ブランコのように
うれしさそして悲しみ
悲しみまたうれしさ
ブランコを漕いで
前へ後へ揺れるように
うれしさまた悲しみ
悲しみそうしてうれしさ
でも大丈夫
どんなに揺れても
どんなに漕いでも
ブランコはしっかり繋がれているから
そうしてブランコが揺れているうちに
ブランコを漕いでいるうちに
いつのまにか目が覚めて
『ああ、ブランコで遊んでたんだ』と
思い出すこともあるかもしれない」
勝手にぼくの口から言葉が音楽のようにあふれてきた。
はまっちは目を閉じて、まるで眠っているようだった。
…
しばらくして、はまっちは目を開けた。
「今のは何?」
「わからない…無意識かな」
何となく、無意識という言葉が口をついて出た。
「あれっ、もう痛みは感じない」
ぼくも一緒に感じていた痛みはなくなっていた。
「不思議ね」
「うん」
「うえっちって魔法使いで、魔法かけてくれたの?」
「えっ、何もしてないよ」
もちろん、そんな実感はまるきりなかった。
「心が静かになって、奥底に泉が開かれて水が湧き出ているような感じ」
「ほら」
はまっちはぼくの手を取って、自分の胸の左側に持っていく。
ぼくはためらったが、遅かった。
触れてみると、何か泉がこんこんと湧き出しているような感じがする、心臓の鼓動とは違う何か。
「ほんとに水があふれている感じ」
今度は、はまっちはぼくの胸に手をあてた。はまっちの手はほんのり暖かった。
「こっちは何か色々な光が放射している感じ」
自分でもそんな気がする。
これは、小屋で幻の中で二人がもらったあのプレゼントと関係しているのかもしれない。
そんなふうに思っていると、
「たいへん、うえっち、上を見て!」
どこまでも澄み切って蒼い空に、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の鮮やかな7色の虹が弧を描いてこちら側から向こう側へとかかっていた。