それから以後のことは覚えているようで覚えていないし、覚えていないようで覚えている。
ぼくたちは補導されて、パトカーで神奈川県から東京都を縦断してぼくたちの住んでいる町に送り返された。
警察署で、お巡りさんにいろいろ聞かれたが、ぼくたちは小屋のことは決して話さなかった。40代の赤銅色に日に焼けたお巡りさんはよくわからない笑みを浮かべつつ、「悪いようにはしない」と何度も言った。
ご多分にもれず、親が呼ばれた。はまっちのところは、父親と母親、うちは母親だけだった。はまっちの母親は、はまっちと同じく朝黒かったが、はまっちより背が低かった。そして何よりびくびくしていた。父親の後を少し離れて歩いてきた。
はまっちの父親というと、歌舞伎役者の女形を思わせるような瓜実顔の肌の白いイケメン。銀縁のメガネをかけて頭も良さそうだったが、白い額に青い血管が浮き出ていた。
ぼくたちはちょっとちらつく蛍光灯の光の下で、灰色のスチールの机のところに折りたたみのパイプ椅子に座らせられていた。
最初にはまっちの父親、ついで母親、その後にぼくの母親が入ってきた。
はまっちの父親はぼくを見ると、綺麗な顔を汚くゆがませた。
「このすけこましが!」
この言葉の意味がわからなかったが、ぼくをなじっていることだけはわかった。
「まあまあ」
お巡りさんは不自然な笑顔を崩さずに、イスを勧めた。
耐えきれずに、いきなりはまっちが顔をあげた。
「うえっちは悪くない!」
「悪くないってこいつとどういう関係なんだ?」
語調はひどく冷静に、しかし額に青筋を立てて言った。
ぼくの母親はそのやりとりを少し離れて見ていた。それから座ったが、座るなりぼくの頬を平手で叩いた。
「変態!親に恥かかせやがって」
「ぼくたちは何も悪いことはしていない」
ゴンドラの中のことが頭をかすめたが、ぼくはすぐに否定した。
「ずうずうしいわね、お父さんとおんなじよ。この年齢でおそろしいわ」
お巡りさんは、ますます目を細めて笑みを絶やさず、言った。
「落ち着いて」
…
それからのことは記憶が抜けている。ただ、覚えているのは、ぼくたちは何をしていたのかと聞かれても、どこにいたのかと聞かれても、どんなに脅されても、あるいは警官に優しい声で尋ねられても、何も言わなかったことだ。
それがぼくたちの約束だったから。
ぼくたちは二度と会わないことが親同士で決められた。
それでも、ぼくたちは自分たちの秘密と契約を守っていれば、必ずまた会えると信じて疑わなかった。