時間はあっという間に過ぎていった。
乙姫先生たちが陰でいろいろ働いてくれたせいなのか、前と同じというわけにはいかなくても、クラスの子たちのぼくを見る目もとげとげしいものではなくなっていった。
はまっちも隣のクラスで、花岡櫻子という親友ができたらしい。というのは、花岡さんが時折、こちらの教室に来て、はまっちの手紙を届けてくれたからだ。ぼくたちのことを知っていた、そんなことをしてくれるのは、はまっちと本当に親しくなければできないことだろう。
はまっちの手紙は、花柄の便箋がぼくには真似のできない器用さで折られていた。誰にもみられないように、校舎の裏の花壇のところで開くと、はまっちの匂いがした。
「うえっち、元気ですか?
わたしは元気です。
うえっちのことをよく考えます。
そうして、うえっちもわたしのことを今考えてくれてるのかなと思ったりします。
ほんとはこうやって手紙を書いているよりも会って話したいです。
大人になったら、いつでも自由に会って話せるのだと思うと、早く大人になりたい。
未来にタイムワープできるならそうしたいです。
けれど、それはできないので、早く大人になれるよう、ただできることを毎日、がんばっています。
今より先の大人になった二人で会えるといいね」
家では、母親はぼくに対する監視の目は厳しさを増していて、ぼくの机の中もカバンの中も安全なところとは言えなかった。ぼくは昔買ったおもちゃの金庫の中に手紙をしまい、あのことの前に手に入れたはまっちが写っている遠足の写真と一緒に入れた。金庫は家の物置の奥にしまい込んだ。
ぼくも返事を書いた。
「はまっち、手紙ありがとう。
いつもはまっちのことを考えているよ。
窓の下で隣のクラスの体育の授業があると、白い揺れるカーテン越しにはまっちの姿を目で追いかけたりする。
朝、自分の席に着くと、『おはよー』と笑いながら肩を叩いてくるはまっちが見えるような気がして。でも、ぼくの席の前には違う子が座っている。
ごめん。
ぼくも一生懸命勉強して、早く大きくなってはまっちを迎えに行くから、待ってて。必ず行くから」
ぼくの手紙は高村君がはまっちに届けてくれた。
ぼくたちの大人になる旅は始まった。ぼくたちという線が再び、自由に出会うためには、この旅を進めるしかないのだと、ぼくたちは覚悟を決めた。
ぼくは苦しかったけれども、胸が痛んだけれども、母はぼくをたびたび罵ったけれども、大人になろうと、また勉強し始めた。それ以外にすべを持たなかったから。