何だか落ち着かない感じでじっと待っていると、はまっちが白いトレイに料理を載せて入ってきた。
「ジャーン、すごいでしょ」
テーブルの上に置きながら、はまっちは得意そうな顔で言った。
唐揚げ、シーザーサラダ、飲み物、そしてオムライスだった。ぼくは、昨日、自分が作ったオムレツを頭に浮かべたが、それとは似ても似つかない素晴らしい出来だった。
「これ、全部、はまっちが作ったの?」
「もちろん」
はまっちは右手の親指をあげた。
「何だか、シェフみたいだね」
そう言いながら、まだ同じクラスだった時、家庭科の時間に肉じゃがを作ってはまっちが乙姫先生に褒められていたのを思い出した。
「さあ、食べて食べて」
でも、ぼくはちょっとフリーズしていた。前に読んだ壷井栄の本に、おじさんが戦争孤児の双子か兄弟を引き取って、ごちそうを作るのだが、二人はごちそうを前にして食べようとしない…その子たちのように、
「どうしたの?」
「うん」
「やだな、うえっちったら感動しすぎて食べれないのかな?」
はまっちはぼくの頭をポンポン叩いた。
ぼくははっと我に戻って言った。
「いただくね」
「うん」
はまっちの料理は、どれもこれもみんなあったかかった。出来立てというのもあるだろうけど、サラダさえあたたかった。
「目のはじに涙たまってるみたい、おかしいなあ、感動しすぎ」
はまっちはぼくの目尻を人差し指でぬぐった。
「ほら、やっぱり」
そうして、太陽みたいに笑った。
「うん」
「いつか、いつの日か、うえっちのために毎日、料理を作る日が来ても、毎回これぐらい喜んでよ」
「…うん」
「さあさ、このオムライス食べて、わたしの最高傑作」
黄色いオムライスの上には、ケチャップでハートが書いてあって、おめでとうって書かれていた。
それを見た時、涙腺が爆発した。抑えようとしたが、とどめることができなかった。
「やだなあ、うえっち、誕生日に泣くなんて」
そう言っているはまっちを見ると、はまっちの目にも涙がたまっていて、あれよと思ううちに頬に流れ星のように涙が流れた。
「はまっちも泣いてるの?」
「あれっ、おかしいな。どうしてだろう」
はまっちは涙をぬぐって、また笑ってみせた。
その笑顔は今度は湖面に映る太陽のようで、心に深く深く沁みていった。
ひととおり、食べ終わると、はまっちは食器を片づけて台所に行った。そして、戻ってくると、声を張り上げて言った。
「まだまだ終わらない、ここからが本番!」
そして、持っていたクラッカーを引くと、パーンという音とともに、色とりどりの細いテープが虹となって飛び出た。
「誕生日おめでとう、うえっち!」
そして、トレイからテーブルの上に置いた、
ちょっとでこぼこした小さなデコレーションケーキを。