無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 47〜赤ん坊の声

「猫の声?それとも赤ちゃんの声?」

「赤ん坊の声じゃないかな」

流されながら、ぼくたちはそんな会話をしていたが、だんだんと赤ん坊の声は大きくなっていった。

「わたしたちを呼んでいるみたい」

「ぼくたちを?そんなことってあるかな?」

そうは言ってみたものの、ぼくもそんな気がしてくる。

「行ってあげないと」

「でもどうやって?」

ぼくは、ずっとこの川に浸っていたかったが、はまっちは立ち上がった。ぼくも仕方なく立ち上がった。

「どういうことだろう、はまっち、全然、服が濡れていないよ」

「えっ…でもうえっちも濡れていない」

ぼくたちは全く濡れていなかった。一体、この川はどうなっているんだろう。

幸い、ぼくたちはそれほど遠くに流されていたわけではなかった。そこで、靴とソックスをひろい、履き直して、赤ん坊の声のする方を探して、河原を歩いた。

大きな石がごろごろと歩きにくかったが、だんだんと赤ん坊の鳴き声は大きくなってくる。そうしてわかったのは、どうやらふたりの赤ん坊が泣いているということだった。

時間はわからないが、もう太陽が西の空に傾きつつあった。急がないと。

「あれっ、あそこに小屋がある」

はまっちの指差す方向に、ぼろぼろの今にも崩れそうな小屋がある。壁板がところどころ白くなって外れているようにも見える。

「あんなところに、赤ん坊がいるのかな?」

「でも、あそこから声が聞こえてくる気がするわ。とにかく行ってみましょうよ」

相変わらず、石に足を取られながら、ぼくたちは小屋のドアのところにたどり着いた。

「入りましょう」

「その前に、一応、ぐるっと見てみよう」

ぼくはずんずんと歩き出した。はまっちもしかたなくついてきた。

そうやって、小屋の裏に回ると、そこにもドアがあった。

「ここにもドアがある」

「どちらのドアから入りましょうか?」

「わからないな」

「困ったわね」

その時、急に強い風が吹いてきて、ぼくたちは思わず目をつぶった。

そして、目を開けると、なぜ気づかなかったのだろう…

「蝉の抜け殻がドアについている!」

「こっちみたい」

はまっちがドアノブを引っ張った。

ギーとして、ドアが開いた。

耳に、今度は、もうすぐそばで泣いているふたりの赤ん坊の声が入ってきた。

そこは、大きな木のテーブルとイスがあり、薬品が並んでいる棚があり、あたりは植物が密集していて、植物園のよう…つまり、思い出した、ぼくたちが来たあの小屋だった。

そして、今度は、テーブルの反対側に来たのだが、床に、ふたつのゆりかごが置いてあって、ふたりの赤ん坊が泣いているのだった。