「そう言えば、私があげたうえっちのミサンガはどうなったの?」
「どうなったかな?ずっと補強し続けてきたんだけど」
僕は、左足のズボンの裾を上げてみた。
「切れてる!」
はまっちは声をあげた。
もうすでに何度も何度も補強し続けてボロボロになって色もわからないミサンガが、真っ二つに切れていた。
「ということは願いがかなったということ?」
「そういうこと」
「うえっちの願いはどんなことだったの?」
「はまっちのもまだ聞いていないよ」
中3の時にディズニーランドに行った時のことを僕は思い浮かべた。
「まだ、言う時じゃない気がする。うえっちは?」
「僕もそうかも」
「とりあえず」
はまっちはポーチからピンクのお守り袋のようなものを取り出して、開いた。
「ほら、私のミサンガ」
「とってあったんだ」
はまっちはミサンガを僕の手の平にそっと置く。
ボロボロになって色褪せてかろうじて青色を保っているミサンガ…
他人からしたらこれほどつまらないものはないだろう、けれど僕たちには何よりも大切なもの。
「ちょっといい?」
はまっちはかがみ込んで、僕の左足首にかろうじてしがみついている、もう虹色とは言えない虹色のミサンガを手に取り、右の手のひらに載せる。
そのまま立ち上がると、僕の手のひらの青いミサンガを取り、自分の左の手のひらに載せる。
「やっと願いがかなってひとつになれるね」
そう言って、両手にそれぞれのミサンガを入れたまま、両手を胸の前で合わせた。
僕は何と言っていいかわからなかった。
言葉はいらない、自分の心の一番柔らかい部分に限りなく優しい何かが触れているような気がする。
「まだ、時間あるよね?」
「うん」
言わなくてもわかっていた。バス停から、僕たちは病院の正門をくぐり、右の小道を通って、ぶなの木の群れを左に回り込み、あの小屋があったところに来た。
もう、僕は胸に痛みを感じることはなかった。はまっちもそうなのかもしれない。
僕は、手頃な木の枝を探してきて、穴を掘った。
木の枝で土を掘るのは簡単ではなかったけれど、だんだんコツを掴めてきたのか、20センチぐらいの深さの穴を掘ることができた。
隣で一緒に屈んでいるはまっちの髪を風が揺らしている。
「ありがとう」
はまっちは微笑みながら、ミサンガを穴の中に入れ、手で土をかぶせた。
そうして、僕たちは立ち上がった。
また、風が吹いてきて、はまっちの髪を揺らした。
「この風はどこから来てどこへ行くんだろうね」
「わからないわ、でもそれで、それだけで、そのままでいいんじゃないかしら」
僕たちはどちらからともなく、泥だらけの手を握って歩き出した。