無意識さんとともに

https://stand.fm/channels/62a48c250984f586c2626e10

催眠!青春!オルタナティヴストーリー 52〜再び

父の事業も完全にだめになるらしいと言ったが、どうやらそれだけでは済まないらしい。今、住んでいる新築の家を売って、どこかに引っ越さなければならなくなるようだ。すぐではないとしても。

そうすると、ぼくとはまっちは離れ離れになる。今でもクラスが別々だが、もっと距離が遠くになる、おそらく同じ中学校には通えなくなる。

このことが、ぼくの心を痛めつけた、心に突き刺さった棘のように。

そして、このことをはまっちに言うかどうか、ぼくは迷っていた。はまっちを悲しませたくない、でも…

茜色の陽がさしこむ放課後の教室で、ぼくとはまっちは会っていた、他には誰もいない。

「はまっち、話したいことがあるんだけど」

それまで話していたたわいもない話をさえぎって、ぼくは言った。

「何かあると思っていたわ、いつものうえっちと何か違うから」

「そうだね」

ぼくの目の前にいるはまっちは、ポニーテールにしていて、気のせいか、ことさらに大人びて見える。

「何でも言って」

ぼくは息を飲んだ。

「…言うよ、けれどもここじゃない。あそこで、ぼくたちの…」

「小屋で?」

「そう」

はまっちがぼくの考えていることがわかってしまうのに、少し驚きながら。

ぼくたちは、なぜか、あのことの後、1度もあの小屋に行ったことがなかった。夢では何度も訪れていたけれども。

どうしてだろう?

補導されたから怖いとかそういうことではもちろんない。そうじゃなくて、ぼくたちにとって特別な場所すぎて、当たり前に行くのがためらわれたのかもしれない。

「じゃあ、明日、3時半にあの小屋で」

「わかったわ」

次の日、ぼくは授業が終わって掃除をしてから、キャンバスバッグを持ったままーあの時と同じだー病院の森の中にあるあの小屋に急いだ。

校門を出て、左に曲がり、もう一度、右に曲がり、バス通りに出てまっすぐ、病院の正門に入ると右手の小道を通り…

何もかも同じだった。

小屋の戸のところに来ると、やはり蝉の抜け殻がある。しかも、今度は2つの抜け殻が並んで戸にくっついている。

『おかしいな、近くにあるナラの樹の下に埋めたはずじゃなかったっけ?しかも今度は2つも』

南京錠は外れている。
引き戸をガラガラっと開けた。

「おかえり」

前と同じように、黄色のワンピースを着た女の子がテーブルの右隅、向こう側に座っていた。前と違うのは、ワンピースが小さく見えることだ。いや、錯覚ではなくて、本当に小さいのだろう。

「ただいま」

こんな会話をして、ぼくたちはちょっと恥ずかしくなった。考えることは同じなんだろう。

「黄色のワンピース、久しぶりに着てみたの。似合っている?」

「すごく似合ってるよ」

そうして、ぼくたちは何も言わず黙っていた。外から小鳥のさえずりが音のシャワーのようにぼくたちの耳の中に、いや心の中に注がれていた。