少女は浮かんでいる
どうして浮かんでいるのかはわからない
ただただ浮かんでいる
少女の目の前に広がるのは、果てしもない宇宙空間
何の音もしない、何の音も聞こえない
ただ自分がそこにふわっと浮かんだ感覚があるばかり
遠くに目をやると、太陽系の惑星が列をなしているのが見える
自分の吸う息、吐く息が聞こえる、この空間でどうして呼吸できるのはわからないが
時折、不思議な感覚が背骨を伝わってくる
心がぐいと引っ張られるような気がして、そちらを見やると、そこには青い美しい地球
「わたしはなんでここにいるのかしら」という自分の心のつぶやきが、心の鼓膜に反響する
何だか懐かしさもこみ上げてくる気がする
自分はこれからどうなるのかわからない、少女にも私にも
この宇宙空間の中に漂っていては、私がどこの誰かもはっきりしない
ただただふわふわとした感覚が自分を取り巻くばかり
この感覚をいったいなんと名づけたらいいのだろう?
そんなことをとめどなく、思い巡らせて、ひとりぼっちの気持ちに浸っていたら、
思いがけなく、右手に何とも言えない温もりを感じて、ハッとする
右を見やると、そこには、今の私より幼い女の子がいて、こちらを眩しそうにじっと見つめてくる
「お姉ちゃん」
私はどうにも愛しい気持ちに駆られて、右の手でその子の左の手をぎゅっと握り返す
「大丈夫、お姉ちゃんはここにいるからね」
女の子は安心したようにうなずく
『何だか、どこかであったような気がする』
そんな思いに浸っていると、今度は、左の手に何とも言えない爽やかさを感じて、驚く
左を見やると、そこには、今の私より成長した女性がいて、こちらを懐かしそうに微笑みながら見つめてくる
「○○ちゃん」
『ああ、そんなふうに呼ばれていたのだっけ』、私は親しい気持ちに駆られて、左の手をその女性の右の手の中にすっぽりと包まれるままに任せる
「お姉ちゃん⁉︎」
何でそんな言葉をこの女性に投げかけているのか、わからない。
「そうよ、私があなたのお姉ちゃんよ、あなたと一緒にいるからね」
私はちょっとはにかんで、自分にいつの間にか言葉をかけている
『私は私であっていい、他の誰にもなる必要はない』
そう思って、遠くまで目を上げると、私の右と左に、幼い女の子と素敵な女性がいるばかりではない、そのまた右にも、そのまた左にも、数えきれないほどの人が手を繋いでいて、地球を取り囲んでいる
「そろそろ、ダンスが始まるようよ」
いつの間にやら、その無数の人が、ステップを踏み、リズムを刻み、踊り始めた、右へ右へと周りながら。