はまっちに会わずに、あっという間に時は流れていく。
ぼくは、時折、二瓶君やクラスの他の男の子たちと遊ぶことはあったが、あとは毎日のように、放課後になると文芸部の部室に入り浸っていた。
メガネとロングの髪が特徴的な部長は、3年生の神楽坂亜矢、あとふたりの女子は、ひとりがショートカットの髪のいかにもおとなしいように見える2年生の岡本実花、もうひとりがセミロングで時々、独り言を呟いている1年生の伊藤有沙だった。
この女性の園の中に入るのは、最初ためらわれたし、男の友達に、お決まりのごとく、ハーレムだとか言われたが、彼女らのいい意味での無関心さに助けられ、だんだんと居心地がいいものに変わっていた。さらに、活動といっても、年に一度、葡萄とかいう小冊子を出すだけで、あとは、ただ、ぼうっと自分で書きたいものを原稿用紙に書くか、本を読んでいるだけで、部活動終了の放送が流れると、それぞれ帰るだけである。
だから、同じ部活に所属していると言っても、お互いに話したことはほとんどなかった。
ところが、ある日、例の放送が流れた後、岡本さんと伊藤さんがそそくさと帰って行った後で、部長と僕だけが部屋に残された。
革鞄に、筆記用具やら原稿用紙やら投げ入れると、ぼくは挨拶をして、部室を出て行こうとしたが、急に部長に呼び止められた。
「たまには、話をして親交を深めようじゃないか。一緒に帰らないか?」
親交という言葉にぼくは顔を赤らめたが、そう言われれば断る理由もない。
ぼくは、毛を刈られる羊のように、部長の後を大人しくついていく。
部長は割と背が高く、ぼくと比べても、大きな差はない。スタイルがよく、男子にも人気があるらしい、なんで文芸部という地味な部活に参加しているかわからない。
一緒に歩いていると、とにかく目立って、人の目が気になる。それで、後ろを歩いていたのだが、さらさらとした髪からいい匂いが香ってきて、ぼくは困ってしまった。
「後ろを歩いていたら、話ができないよ。前に来てくれないかな」
そう言われて、周囲を見回しながら、ぼくは左隣に歩み寄る。
「そう言えば、顧問の大橋先生は全く姿を見せませんが、どうされたのでしょうか?」
大橋先生はぼくの担任だから、姿を部室に見せなくても問題はない。問題はないが、ぼくは沈黙が耐えられなくて、つまらないことを言ってしまう。
「そうだな、忙しいんじゃないかな」
部長は部長で、どうでもいい返事をしてくる。『ところで、この人は何でこんな話し方をするのだろう』というさらにどうでもいいことを、ぼくは考えてしまっていた。
「ところで、君はどんな本が好きなんだ?」
ぼくはすぐに答えられなくて、一瞬黙ってしまった。