調理実習室では、十数人の女子がわいわいがやがや、お互いに話していた。さすがに、家庭部というだけあってか、男子はいない。
部長は、わたしを連れて、皆の前に行って、手をぱんぱんと叩いた。その様子が部長のキャラに合っていないような気がして、クスリと笑いたくなったが、必死にこらえた。
「はい、皆さん。新しい部員を紹介します、まあ、新しいと言ってももう入部はしていたんですが。はい、浜崎さん、自己紹介してね」
部長の緊張がこちらにまで伝わってくるようだ。
「皆さん、初めまして。浜崎幸子と申します」
誰かが「かたい、かたい、石になっちゃうよ」という明るい声が聞こえた、するとみんながいっせいに笑った。わたしも何だか、口の端でちょっと笑ってしまった。
「えーと、将来、シェフになりたいと思っています」
何だか、雰囲気にのまれて、とんでもないことを言ってしまったと思った瞬間、「すごーい」という同じ声が聞こえ、それからみんなが拍手してくれた。
何だかホッとして力が抜けて、部長の方を見ると、部長も落ちてきた前髪をかき上げて、ホッとした顔をしている、どうやら部長も緊張しいのようだ。『なんか、つくづくいい人だな』と思ってしまった。
自己紹介が終わると、部長に指示されて、ひとつの調理テーブルのところに行った。5つのグループに分かれているらしい。
わたしのテーブルには、ショートボブの子とおさげのメガネの子がいた。
ショートボブの子は、いきなり、わたしを見ると、
「いえーい、よろしく、よろしく」と言ってハイタッチしてくる。わたしもそれに合わせてハイタッチした。何だか聞いた声だと思ったら、さっき、わたしが自己紹介した時に「かたい」とか言っていたのはこの子のようだ。
「南野晴子でーす、初めまして」
なるほど、名は体を表すという通りの名前だ。
もうひとりの子は、ちょっと、南野さんの圧に押されてちょっと引いている。
「友野由美です、初めまして」
ふたりの顔を見ながら、わたしも「よろしくね」と言う。
蚊の鳴くような声で言う。
その時、部長の声がした。
「さてさて、今日は基本のクッキーを作りまーす。クッキーができたら、顧問の許可も取ってあるので、できたクッキーをつまみながら、浜崎さんの歓迎会…」
ちょっと詰まった。
「もとい、歓迎会、やるぜ」
一瞬の沈黙。部長はしまったと言う顔をしたが、その後、みんながゲラゲラと笑って、また拍手喝采。
何だか、この部のみんなとは仲良くやれそうだ。