無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 83〜H13 オムレツ

わたしに、『将来の見通し』なんてものがあるのかな。

じっと考えてみた。すると、かさぶたに覆われた傷の向こうに、あの小屋が見えて、シェフになっている自分がいる。

小屋は変わらず、わたしの心の中にある。

わたしは恐る恐る、心の中にある小屋の戸を開けてみようとした。

心にあるあの小屋には鍵がかかっていない。戸は音もなくするりと開いた。

中は、テーブルと長椅子、左にモスグリーンのソファ、棚にラベルの古ぼけた薬品…あのままだった。消毒液とカビの入り混じった匂いも同じだった。

わたしはいつでも好きな時にここに戻ってこれる。そして、うえっちをここで待っていることができる。

わたしたちの道はいつか、また交わる、わたしたちがそれぞれ、前に向かって進み続けるなら。そんな気がしてならなかった。

そうして、わたしには夢がある。シェフになるという夢。この夢を追いかけて、どんなに傷だらけでも、涙を流しても、転んでも、たった一歩でも半歩でもわたしは前に進めるはずだ。

それから、わたしは家庭部の活動に前よりも積極的に参加するようになった。家庭部でいろいろな基本の料理を覚えることがとても楽しかった。家で寝たきりの母の代わりに作ってあげられるレシピも増えた。

それだけではなく、シェフの基本は何かと、本を読み、自分でも考えて、まず、ちゃんとオムレツを作れることではないかと思い立って、家でも、毎日のように、オムレツを作る練習をしてみた。

まず、卵を手早く片手で割れるようにする。今まで、両手で割っていたからこれだけでも何回も何十回も練習が必要だった。

そして、フライパンを冷たすぎず、熱すぎず、適度な温度に温めて、白身と黄身が一体になるまで混ぜた卵液を流し込み、流し込んだ卵液を間を入れず、かき混ぜる。泡が出てきたらまだほんとに柔らかいうちに、フライパンの柄をとんとんしてオムレツを形作り、最後にもう少し力を入れてひっくり返す。

これだけのことがなかなか難しい。

卵が固まりすぎたり、形が歪だったり、ひっくり返す時に崩れたり…見た目が綺麗な形のオムレツができるのに一ヶ月、さらに、中もいいトロトロ具合の黄色のオムレツができるまでにさらに三ヶ月かかった。

そんなオムレツができたら、誰かに食べさせたかった。いの一番に頭に浮かんだのは、うえっちの顔だった。

でも、もうずっと会っていない。今更、どうしたらいいだろうか?

手紙を書いたらいいのだろうか?

前に会ったのは、中1の春で、今や中2になろうという春を迎えていた。