無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 93〜H18 福井君

中2になって、怜とは変わらず一緒に帰っていたけれど、クラスは別れた。わたしは2年E組になった。

担任は、熊井隆という男性の先生で、文字通り、熊のような体型をした体育の先生だった。何かにつけ、「みんなで一緒にガンバロー」が口癖で、みんな表面上は従っていたが、何だか鬱陶しく感じることもあった。

わたしは女子にしては、背が高い方だったから後ろの方の席。教室のちょうど真ん中の後ろから2番目。

そして、隣には当然ながら男子が座っていた。黒縁のメガネをかけていて、ちょっと痩せ気味で、神経質そうな、でもどこかうえっちに似ている気がしてならない。

名前は、福井俊介。

ほとんど人と話さず、笑うこともない。

けれど、ある日の授業中、わたしは見てしまった。

国語の授業中、隣をふと見やると、あろうことか、福井君は、立てた国語の教科書に何かの本を重ねて熱心に読んでいる。

そうして、ページをめくるうちに、あるページでしばらく動かない。そうこうする内に、体が震えてきて、左手で口を押さえている。

そのうち、我慢ができなくなったのか、声をあげて、「あはは」と笑い出した。

その笑顔があまりに愉快そうで、呆れながらも羨ましくもある。

クラス中の生徒が、彼の方を振り返って見つめる。

「福井、何してる!」

国語の先生は怒りを滲ませた声で言う。

「すみません、ちょっと思い出し笑いをしていただけです」

福井君は、重ねていた本をさっとマジシャンのように手際よく机の中に押し込んで、顔色ひとつ変えずに言った。

「思い出し笑いは家だけにしとけ」

「はい、はい、はい」

「はいは一回だけ」

「はい、はい」

先生は心底呆れたような目で見つめるが、福井君は動じない。

わたしと福井君は席は隣で同じ班だったが、話したことはなかった。

ある日の掃除の時間、ゴミ捨てを頼まれた。

「浜崎さんひとりじゃ持てないから、福井君、一緒に行って」

班長の田中君がちょっと偉そうに言う。

わたしが大きなゴミ袋をひとつ、福井君が何だか三つ持ってくれて、わたしの後からやれやれという感じで、やる気なさそうについてくる。

もうひとつの校舎の裏のゴミ置き場までくると、そこにゴミ袋を置くと、たいそうにふぅっと息をつく。

「ごみ袋、三つも持ってくれてありがとね」

「…まあ、一応、やる気を表面上でも見せておかないとね」

どういうことかと思ったが、わたしはつい口がすべって言ってしまった。

「そう言えば、こないだの国語の時間、教科書に隠して、本読んでたでしょ?」