無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 89〜H16 後悔

わたしは家に帰ると、ショックのあまり、布団に飛び込んだ。そうして、布団をかぶったまま、むせび泣いた。ママは「どうしたの?」と言ってくれたが、何も言えなかった。

ママは私の代わりに夕食を作ってくれた。

「幸子の大好きなハンバーグよ」

白いお皿には、デミグラスソースのかかったハンバーグとベイクドポテト、甘いニンジンのグラッセまで添えてある。わたしが泣いている間に、手間と時間をかけて作ってくれたに違いない。ママがこうやって料理を作るのは久しぶりだった。そして、わたしの好きなものを作ってくれたのは、本当にうれしかった。でも、胸に何か詰まっているようで、一口食べてもなかなか飲み下せない。

「今、おなかいっぱいだから。また後で食べるね」

「幸子、大丈夫?」

「うん、大丈夫。ただ、ちょっと、寝るね」

今は、古びたアパートに二人暮らしだから、もう自分の部屋というものがなかった。

それで、また、布団の中に潜り込むしかない。

『あの女の人は誰なんだろう?』

『うえっちの恋人?』

どう見ても、あの女性は中学生には見えなかった。高校生、ひょっとすると大学生?

綺麗で、とても知的に見えた。それに比べて、わたしは…

『もう、うえっちはわたしのことなんて忘れちゃったのかもしれない、これっぽちも覚えていないのかもしれない。そうでなくちゃ、あんなモデルみたいな人と、あんなに親しげに話せるわけない』

うえっちの隣、あそこがわたしの場所、わたしの特等席だったのに、あそこに今は違う人がいる、もうわたしの場所なんてない。

嫌、嫌、嫌。

夢で、別れ道なんて選ばなきゃよかったの?

選ばなかったら、ふたりともずっと永遠に小学生のままで、あの小屋にずっといられたんじゃないの?

そうしたら、わたしたちの物語はあそこで終わって、おとぎ話のお決まりの文句で、「ふたりはその後、ずっと幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」でハッピーエンドで締めくくられたんじゃないの?

そうじゃなくても、高村君と花岡さんみたいに付き合っていたら、よかったのかもしれない。
でも、そんなことでどうにもならないことはわかってる。実際、もう高村君と花岡さんは別れている。
この前に、と言ってももう1年も経っているけれど、公園で会った時のうえっちのそっけない態度を思い出す。
もう、いっそのこと、ミサンガも取ってしまおうか?

わたしは、左足首についている青いミサンガに手をかけた。

その瞬間、
『ねえ、幸子は…ずっと続く関係を望んでいるの?』

という怜の声が頭の中に響いてきた。
わたしは手をとめて、独り言のように心の中でつぶやいた。

『ええ、そうよ、今も』