無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 32〜学校

はまっちは隣のクラスに移された。

親は転校させるつもりだったらしいが、乙姫先生が説得してくれたということだった。

ぼくたちの小学校は新設校で2クラスしかなかったから、折に触れてはまっちの顔を見ることはあった、廊下ですれ違うとか、窓から体育の授業をしている彼女を見るとか…。

でも、話しかけることはできなかった。

いつのまにか、ぼくたちの噂は広がっていて、何でもぼくたちは不純異性交遊をしたことになっていて、とんでもない不良ということになっていた。

もちろん、そんな中でも乙姫先生は味方をしてくれたが、隣のクラスの岡田先生はどうだかわからない。ぼくの方が隣のクラスに行った方がよかったのかもしれない。

表立って何かということはなかったが、クラスの生徒はよそよそしくなった、ぼくが何かを言っても無視されることが多くなった。また、離れてぼくのことを見て、何かひそひそ話している女子たちもいた。

もちろん、高村君を始めとして少数の男子生徒は、依然と同じように変わらず接してくれた。特に、高村君はぼくをかばってくれていた。

『ぼくでもこうなんだから、知らないクラスに行ったはまっちはもっと苦しんでいるかも』と思うと、ぼくはいたたまれなかった。

彼女を見かけて、他の人に気づかれない僅かな時の間に目が合う時、ぼくは目の表情の中に彼女の言葉を読み取ろうとした。

また、はまっちと他の生徒たちの会話をたまたま聞くことがあると、耳を澄ました。

けれど、ほんとのところはどうなのかわからなかった。

冬になって、乾いた風が吹く晴れた日の掃除の時間、ぼくはひとりで校舎の裏にある飼育小屋の脇のゴミ捨て場に、ゴミの入った十個ぐらいのポリ袋を運んでいた。ひとつひとつがかなり重く、手伝ってくれる人はいなかったので、何回か往復するつもりだった。

2回目に行っている時に、ぼくの良く知っているまっすぐな背中が目の前にあった。

「はまっち」

ぼくは小さな声で呼びかけた。

「うえっち」

はまっちも振り返ると子犬の鳴き声のように言った。

ぼくはもう辺りに人がいるかも確かめず、思わず駆け寄って、はまっちの手をとった。指先がとても冷たかった。

「隣のクラスで大丈夫…なの?」

はまっちは一息呼吸をして言った。

「クラスはそれほどでもない」

「家は?」

「…」

はまっちの目から涙があふれた。何もできない自分が苦しかった。

でも、はまっちは涙を指で拭って、言った。

「うえっちは?」

「ぼくは大丈夫。家は厳しくなったけど」

はまっちも手を握り返した。

「何よりつらいのは…」

でもそれ以上言葉が出てこなかった、ぼくも出てこなかった。

ぼくたちはしばらく寒風の中、そのままにしていた。

「もう行かなくちゃ」

はまっちはそう言って走っていった。

ぼくはその背中を見えなくなるまでずっと見つめていた。