無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 63〜U2 班学習

U2

 

それから授業が始まった。小学校とは違って、各科目違う先生が教える。それだけで、大人に近づいた気がする。

特に、担任の大橋先生の授業は興味をひかれた。予習の段階で、教科書の文に対して自分で調べる項目を考え出し、調べて、班ごとにその数を競わせる。ぼくは50項目のことを調べあげ、班の勝利に貢献した。

そうこうするうちに、同じ班のメンバーとは自然、仲良くなっていった。僕の隣に座っていたのが、よくしゃべりかけてくる佐藤さんで、背が低めで、郷ひろみというアイドルにはまっていて、よくノートに似顔絵を書いていた。ぼくの前に座っているのが、仁平君で授業前に天文の世界という雑誌をよく読んでいた、いつもくだらない冗談ばかり言って周りを笑わせた。そして、その隣に座っていたのが、保倉さん。髪をポニーテールにして、カラカラと笑ってあっけらかんとした感じだった。

国語だけでなく、理科の実験も、もちろん放課後の掃除もこの班の4人と一緒だった。

掃除の時間、一通り終えてしまうと、ひとけのない教室で、ぼくたちは、誰が考え出したのか、ビー玉でサッカーに興じた。そして、小さな様々な色と形が入り混じるビー玉を足で蹴りながら、ふとひとりが笑い出すと、伝染したように次から次へと笑い出した。後から考えると、何がそんなにおかしくてたまらなかったのがちっともわからなかったが。

大橋先生から、班でこなす宿題が出されたので、佐藤さんの家に集まったことがあった。女の子の家に行くのだから緊張しても良さそうなものだが、全く緊張しなかった。ぼくたちはローテーブルに、教科書やら参考書やらノートやらを広げて、冗談を言い合う間に課題をするという感じだった。

ひと通り、課題を終えてしまうと、ぼくたちはお菓子を食べながら、また話し出した。

「何か、面白いことない?」

「そういえば、催眠術の本を授業前に読んでたよな、上地君?」

ぼくは急に話しかけられたびびった、それ以上に驚いたのは催眠術の本のことだった。

催眠術の本は2種類持っていた、「催眠」と「自己催眠」という本でクリエイトブックスというところから出ている新書版の本だ。両方とも同じ東大の教授が書いていた。

この二冊の本は、父親の誕生日に渡したものだった。それがぼくの手元にあるのはどういうことかというと…

ぼくは親に自分の誕生日を祝ってもらったことがなかったから、もしかしたら親の誕生日を祝ったら自分の誕生日も祝ってくれるんじゃないかという浅はかな考えを抱いたのだった。

それで、近頃、体調が良くないと言う父に、誕生日プレゼントとして、この二冊の本を渡したのだが、父は包装紙を開くなり言ったのは、「こんなつまらないものにお金を使って」という言葉だった。

ぼくは放置されたきり読まれることのない本を自分の部屋に持ってきた。それでも気づかれることはなかった。それで、しょっぱい思いを噛み締めながら、この二冊の本を読んでいたというわけだ。

「催眠術?面白そう、かけてかけて」

「そうだよ、上地、やってみようぜ」

ぼくはうろ覚えの催眠術を試してみるしかなかった。