あるところに、男の子がいた。
男の子は、星の砂を漁る仕事をしていた。
家が貧しかったから、男の子が漁る星の砂を市場で売って、一家は暮らしていた。
その日も、川で男の子が絹でできた目の細かい網を使って、星を漁っていると、そばにひとりの女の子がやってきた。
女の子も、星の砂を漁ろうとしたが、綿でできた目の粗い網では星の砂はほとんど掬うことはできない。
男の子が女の子を見ると、その子はどこか自分に似ているようでもあり、違うようでもあった。
懐かしい、前に会ったことのあるようでもあり、心をときめかせる、全く会ったことのないようでもあった。
「星の砂を、この網をとって一緒に取ろうよ」
男の子は言った。
「うん、ありがとう。あなたと一緒に取れることがうれしいわ」
女の子は言った。
ふたりで一緒に、手と手を合わせて、絹の網を引くと、いつもより何倍もの星の砂を取ることができた。
そうして、ふたりは、来る日も来る日も、一緒に希望の星の砂を漁った。
ところが、ある日も来てみると、女の子がいない。
いくら待っても来ない。
項垂れていたが、顔を上げてみると、川の向こう岸に女の子はいた。
呼びかけてみたが、声は届かない。
口の動きを読み取ってみると、「あなたはあなたの星を漁って」と言っているようにも思える。
そして、女の子も、向こうで自分の星を漁っている。
男の子は、自分で自分の星の砂を網で掬い始めた。
すると、掬えば掬うほど、二人の立っている川の幅は狭くなり、二人の遠い距離が近くなるように思われる。
男の子は、夢中になって、毎日、家族のためではなく、女の子のためでもなく、ただ自分のために、自由の星を獲り始めた。
そうやって、夢中になっていると、もはや女の子のことも忘れてしまっていた。
時が過ぎ、男の子はたくましい男性になっていた。
男性が網で星をひと掬いすると、向こう岸とこちら岸がつながった。
目を上げてみると、そこには、知らない美しい女性が立っていた。
一瞬、驚いたように見つめあって、ほとんど同時に言った。
「初めまして」
…
「それでは、覚醒した状態に戻ってきます」
「ひとーつ、心と身体に爽やかな風が流れ込んできます」
「ふたーつ、心と身体がだんだん、かるーくなってきます」
「みっつ、大きく深呼吸を1回か2回か3回して、はっきりと目を覚まします」
ぼくは、目を覚ました。前に藤堂さんが座っていた。
「どうだったかな?」
「なんだか夢を見ていたような…でも意識はありました」
「それはトランスという状態だよ」
「トランス?」
アイスティーの氷はすっかり溶けていた。ぼくはちょっと生ぬるくなったアイスティーをごくりと飲んだ。
その後、特待生の説明を聞いた。特待生になるのに、特別な条件はないこと。ただ、家の人に許可を取ること、特待生になったら、基本、塾の授業は全部出ること、オール4以上の成績をおさめることだった。
ぼくは、母に何かの許可をもらうことをいつも恐れていたが、特に恐れもなしに、家に帰るとすぐ、母に許可をもらった。母は無料だし、近所なのであっさりOKをくれた。
ぼくは晴れて、無限塾の塾生になった。