無意識さんとともに

https://stand.fm/channels/62a48c250984f586c2626e10

催眠!青春!オルタナティヴストーリー 115〜H30 変わっていくなかで

ママは、怜のパパのところに、一週間に一回、カウンセリングに出かけている。

どんどんよくなってきて、この頃は寝込むこともほとんどない。

それどころか、私の記憶の限り、こんな元気なママを見たことがない。頬も薔薇色で、まるで10代のエネルギーに溢れる少女のようだ。何だか、私よりも元気な気さえする。

そのうち、ママは、あの駅前のパン屋さんにパートに出かけるようになった。

さらに、合間を縫って、医療事務の仕事に就くための勉強も始めているようだ。

ママについて、わたしが心配することはもう何もないのかもしれない。ママはママの人生を歩んでいる。

わたしもわたしで、学校と家庭部、そして塾の往復で、生活が充実している。そして、怜と福井君といる時間がすごく多くなってきている。

怜とふたりきりの時は気づかなかったが、怜もほんとは軽口を叩くフランクな性格なのかもしれない。何だか、ふたりの関係が羨ましく思える。

福井君がうえっちに似ているのもあるけれど、怜と福井君が話しているのを見ると、反射的に、うえっちと自分のことを思い出してしまう。

今日も今日とて、帰り道。

「福井君は、家で、聖書読んだり、お祈りしたりするの?」

怜はこの頃、福井君をからかってばかりいる。

「うん、まあ。でも、サボることもある」

「見栄張ってるでしょ。神父の息子だものね」

「いや、そんなことないよ。父親の言うことばかり聞いてはいられない」

「それはそうよね、私たち、反抗期真っ盛りなんだから」

「そうだよ、ぼくだって反抗期の一員だよ」

「男の子なんだから、ベッドの下にそういう本を隠していたりするの?」

福井君は真っ赤になって答えられない。

「…そういうことよね、ごめん」

「いや、そんなふうに言われると、なんか確定事項のようで」

私は、怜ってこんなキャラだったのと思ってみたりする。お嬢様だと思ったのに、Sなの。でも、案外、お嬢様ってSなのかもしれない。

まあ、うえっちと私の会話を思い出させると言っても、ほんとはだいぶ違っている。

ここにいるのは、怜と福井君で、わたしとうえっちではない。それに、わたしはこんなSキャラではない。それでも、とても羨ましく思ってしまう。

「もしかして、サッチ、あの人のこと考えていた?」

怜は、いつの間にか、私のことをサッチと呼ぶようになっていた。

「ううん」

「嘘、わかるわ。あの人はサッチにとってとても大事な人だものね」

「あの人ってどんな人?」

福井君は、眠りから覚めた犬のようにうすらとぼけたことを言う。

「福井君は黙っておいて、神父の息子に恋愛のことはわからないわ」

福井君はまたしゅんとなった。でもまんざらでもない顔をしている。もしかして、福井君はM、怜と本当にびったりなのかもしれない。

わたしとぴったりなのは…、わたしはうえっちの顔を思い出そうとしたが、それは中1に公園で会った時の顔ではなく、モデルのような人と歩いているのを見かけた時の顔でもなく、小5のあの時、あの小屋で一緒にいた時の顔だった。