今日は開校記念日で、学校はお休みだった。
けれど、塾の授業はある。今日は植木さんの英語の授業。
わたしは、午後2時頃に行動を開始した。
まず、買い物、近所のスーパーで、合い挽き肉やらミニトマトやらを仕入れてきた。
母はパートの仕事に出掛けている。
そして、スケッチブックを抱え、台所に閉じこもって料理を始めた。
お赤飯はタイマーをかけておいたので、ちょうどいい具合に炊き上がっている。
刻んだ玉ねぎを茶色になるまで炒め、冷ましてからミルクでふやかしたパン粉と共に、合い挽き肉と混ぜる。
美味しくなるようにと願いながら、手でしっかり捏ねる。
小さめの丸い形にまとめて、フライパンで焼く。
焼き具合が難しい、串を刺して透明な液体が出たらOK。
これでミニハンバーグは完成。
オムレツは、卵2個を手早く混ぜ、卵液を作り、熱したフライパンに半分入れて高速で混ぜて、トントンとフライパンの柄を叩き、丸めて出来上がり。
ナポリタンは、玉ねぎとベーコンとピーマンを炒め、ケチャップを絞り、コンソメを入れ、パスタを合わせてできた。
2つのお弁当箱に、お赤飯をつめ、ハンバーグとオムレツを入れ、ナポリタンを添え、彩りにミニトマトとブロッコリーを添えて、出来上がった。
これを美味しそうに食べてくれるうえっちの顔を想像して、頬が緩む。
ついに、うえっちに、わたしのオムレツを食べてもらう日が来たのだ。
どんなにか、うえっちに食べてもらいたいと思ってきたことだろう。
それがかなう日が来た。
塾用の鞄を開けて、お弁当を入れようとした。
すると、紙袋につつまれたチョココロネがふたつ。まだ、湯気が出る状態で入れたからか、皺々になっている。
『いけない、忘れていた』
その皺皺のパンを見ていると、何だか心に霧がかかってくるような気がしたが、わたしはそれを懸命に振り払った…
いつものように、怜のパパの車に、福井君と一緒に乗り込む。
『今日は、あの子は来ているかしら?』と何となく思ってしまう、そして後めたく感じてしまう。
怜はまるでそんな自分を見透かしているかのように、まっすぐな瞳でこちらを見つめてくる。
そうだ、いけない、そうだった。わたしはわたしらしく、わたしが楽しいことをすればいい。
塾に着くと、うえっちは来ていた。あの子は来ていない。
うえっちは顔色が悪く、青ざめて見える。
「うえっち、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ちょっと昨日、深夜放送聞いて、夜更かししただけだから」
『うえっちが深夜放送?』
「そう、面白かった?」
「うん、シンガーソングラーターのNがパーソナリティをしていて、面白いんだよ」
何だか、うえっちの言葉と内側から伝わってくるものがチグハグのような気がしてならなかった。