結局、どこに行こうかと迷ったあげく、いつも行っているファミレスに落ち着いた。中学生のお小遣いで無理がないような店は、舌を出している女の子の人形がお出迎えをしてくれるあそこしかなかった。
いつもの受付の人に案内されて、いつもの窓際の席に着く。ここからはいつもと同じように、隣のホームセンターが見える。
違うのは、この4人で席についたということ。
ボーイッシュだけれど大人しそうに見える岡本さん、独り言の多いやや落ち着きのない伊藤さん、今は別人のようにしか思えない佐伯さん、そしてぼくである。
4人でテーブルのどの位置につくか、迷ったが、岡本さんと伊藤さんが並んで座ってしまったので、佐伯さんとぼくが並んで座ることになった。
さて、何を話したものやら、話題が見つからない。
ちょっと、沈黙が続く。
「佐伯さん、感じがだいぶ変わりましたね」
3年生だから自分が喋らなくちゃということでもないだろうけど、岡本さんがまず口火を切った。
「うん、前もよかったけれど、今もいい感じ」
伊藤さんが言ってくる。
「うん」
佐伯さんが頷く。
「ところで、今度の『葡萄』に載せる原稿は決まった?」
ぼくは、これ以上、佐伯さんの容姿に触れるのは地雷のような気がして、話題を変える。
「わたしは、書き溜めている詩を載せたいと思います。ほとんどポエムなんだけどね」
伊藤さんが忙しなく言う。
「いつも、つぶやいては何か書きつけているのはそれなんだ、羨ましい。私なんか書くことがないからどうしようかなと思っているところ」
岡本さんは目を大きくして言う。
「佐伯さんは、何か載せるの?」
同学年のよしみなのか、伊藤さんが聞いてくる。
「私は…私は…短編小説」
「短編小説か、すごいなあ」
「どんな短編小説?」
ぼくはなかなか女の子3人の会話には入れない。
「うん、恋愛小説で、女の子が同じ部の男の子に恋をしたんだけど、もうその子には好きな子がいて…失恋」
一瞬、全員が凍りついた。ぼくは誰よりも凍りついて全く動けない。
でも、待てよ、何で岡本さんと伊藤さんもフリーズしているんだろう。ぼくたちのことを何か知っているんだろうか?
その時、なじみがある声がした。
「うえっち、何しているの?」
はまっちがぼくの目の前に立っていた。こんなことがあるわけがない、このタイミングで。
「はまっち」
岡本さんと伊藤さんは顔を見合わせた。佐伯さんは顔を上げた。
「ママが藤堂先生のところに来ていて、終わるまで待っていてと言われたの」