教会は、僕にとって、生き地獄みたいなところになったが、流花ちゃんがそこにいると思うと僕は何とかギリギリ行くことができた。
『流花ちゃんは僕を赦してくれた、流花ちゃんは僕に怒っていない』
その思いが一服の清涼剤のように胸の中に広がる。
あの告白以来、怖くて流花ちゃんの顔を見ていなかったが、視線を合わせると流花ちゃんは微笑んでくれた。おそらく、今までも微笑んでくれていたのだ。僕は気づかなかっただけなのかもしれない。
ただ、教会の集まりはますます異様なものになっていた。
たっちゃんは、牧師のメッセージの後、立ち上がって預言をしだす。
「この前は佐藤兄弟(これは僕のこと)が皆さんの前で罪を告白し、神から赦されました。
しかし、隠れて罪を犯しているのは一人だけではないはずです。
神はどんな小さな罪もお見逃しにならない。
イエス様はおっしゃったのです、『情欲を抱いて女を見るものは既に姦淫を犯したものだ』、その罪を犯しているものがひとりのはずはない。
姦淫を犯したものは、当時、石打ちの刑にされるほど重い罪でした。
あなた方は、それほどの罪を、人に対して、また、神に対して犯しているのです。
その罪を隠せば隠すほど、その罪はますます大きく重くなり、神の怒りは積み重ねられて遂には罰が頭上に下るでしょう。
その時、後悔しても遅い。
あなたがたは、主を信じて、主の清い霊をその身にいただいたのです。
清い神の霊を宿していながら、神の宮である心と体を、そのような汚らわしい思いで汚すなら、あなたがたに対する裁きと罪は、主を信じていないものに対するものより、ずっと厳しいものになるのです。
今すぐ、前に出てきて、私の前で、神に罪を告白しなさい」
みんなは顔を見合わせていた。
たっちゃんは、いらいらしげになおも言った。
「何をためらっているのですか?主を裏切ったユダがどうなったのか、知っていますか?首を吊ってはらわたが裂けて全部出てしまったと聖書に書いてあります。
あなたがたはユダになりたいのですか?」
男性信徒たちは、なおもためらっていたが、もう観念した様子だった。
みんな、ぞろぞろと前に、たっちゃんの前に出てきた。
中には、驚くべきことに、牧師もいた。
僕は、そのような罪を犯したのは自分だけではないことにほっとしながらも、表現できないどうしようもない違和感を感じていた。
その瞬間、大きな声がした。
「こんなのは、神様の言葉ではないわ」
声の方を見ると、なんと流花ちゃんだった。流花ちゃんは白いワンピースを着て天使のように見える、顔が上気している。
「神様はこんなことはお望みにならない」
流花ちゃんは澄んだ声ではっきりと言った。
けれど、たっちゃんは流花ちゃんをぎろりとまっすぐ見据えて言った。
「アナテマ」