無意識さんとともに

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聖人A 35  再び狂宴のただなかへ

空港に着くと、僕はカールトンプレイスという教会近くのホテルに行くために、タクシーに乗った。

頭にターバンを巻いた大柄のドライバーだった。

僕が場所を告げると、急に、豪快とも不気味ともどちらにも取れるような大声で笑い出したので、僕はどこか変なところに連れて行かれはしないかと気が気でならなかった。

けれど、ちゃんとカールトンプレイスの前に止まって、僕は生まれて初めてのチップをおずおず渡すと、人懐っこい笑顔で、'Thank you'と言った。

拙い英語でチェックインを済ませ、僅かな衣服とカロリーメイトばかり入ったスーツケースを部屋に置いて、僕はすぐに教会に繰り出した。

午後4時から集会があることを僕はネットで調べていたのだ。

道で人と出会うと、みんな、まるで知り合いのように笑顔を向けてくる。

僕もぎこちない笑顔を返す。

周りを見渡すと、背の高い建物が見当たらない。代わりに、横に広い建物ばかりだ。

そうこうするうちに、僕は聖霊が降ったという教会の建物のところに来た。

毎日、毎日、全世界からたくさんの人が訪問していると言う。

建物に近づいただけで、僕は何だか電気を帯びた毛布のようなものに包まれる感覚を感じた。
両開きの頑丈なドアを開けると、エレキギターやドラムの音が鼓膜を穿ち、叫びのような祈りがこだまする。

コンサート会場なところに、平日なのに、ざっと見積もって数千人の人がいた。

コンサート会場と違うのは、数千人の人の大部分が、笑い転げたり、まるでボールのようにバウンドしたり、寝たまま跳ねたりしていたことだ。

僕は、一瞬、たっちゃんのことを思い出し、恐怖を感じたが、ここまで来た以上、前に進むしかない。
僕は、横になっている人を突っ切って行って、祈りの順番を待っている人の列に加わった。

順番を待っている人たちの人種は色々だった、白人、アジア系、黒人…、年齢もばらばらだった、ただ、みんな、とても興奮しているように見えた。

僕も、いつの間にやら、その興奮に感染したようだった。

順番が来るのが待ち遠しくてたまらない気になっていた。

『僕は、力を得るのだ、普通の人なら得られない神の力を』

その瞬間、松沢さんのリスのような愛らしい顔とピンとはったブルーのシャツの胸の部分が浮かんだが、僕はかぶりを振った。

祈ってくれる人は、長髪でブルージーンズにジャケットを羽織った白人だった。Intercessor(取り成し手)というカードを下げている。

僕の頭の上に手を置いて、祈り出した。