”COME, HOLY SPIRIT!”(聖霊よ、来てください)
ヒッピー風のその人は言うと、僕は上から何か力が降ってくるのを感じて、立ったままジャンピングし出した。
そして、そのまま、床に倒れ込んだ。
そうすると、彼はさらに、倒れている僕の上方に手をかざして言う。
”MORE POWER, MORE, MORE."(もっと力を、もっと、もっと)
僕は、あろうことか倒れたまま、さらに身体が垂直に跳ね出す。
そして、お腹の中から笑いがこみ上げてきて、思わず笑い出す。
すると、目を見開いている僕に向かって、彼は親指を立てて言う。
"GOOD."
僕が予想していたものとは違って、頭の中はシーンと醒めている。
ただ、何がおもしろいのか、わからないが笑いが溢れてくる。
そうやって、15分ぐらい、倒れたまま、飛び跳ねたり笑い続けたりした後に、僕は起き上がった。
そうして、ふらふらと歩き出すと、急に声がした。
「うらやましいわ」
振り返ると、そこには、日本人の10代の女の子がいた。どうやら、僕と同じぐらいの年齢らしい。
何だか松沢さんにちょっと似ている。
顔といい、スタイルといい…そんな不謹慎なことを考えている自分に驚いて、僕は首を振る。
「私なんか、もうここに1ヶ月以上いるけれど、あなたのような現象をまだ体験したことがないのよ」
そこから会話が始まって話し出すと、同じぐらいの年齢と思ったのは僕の勘違いで、実際は大学生のようだった。
「コツがあったら教えてくれない?」
「コツと言ってもなあ、わからないよ。でも、頭を空っぽにして、神様にフォーカスするのがコツかもしれない」
僕は口から出まかせの適当な言葉を出す。
「わかった、やってみる。ありがとう。じゃあ、またね。私はもう一度、列に並んで祈りを受けてくる」
僕は、後ろ髪を引かれるような思いがしたが、いったんホテルの部屋に帰ってから、カロリーメイトを食べて休んでからまた夜の集会に来ようと決心した。
部屋に帰って、カロリーメイトを齧り、ベッドの上に横になってからも僕はその女の子のことをぼーっと考えていた。
『おいおい、これで僕は本当に聖霊に満たされたと言えるのだろうか?』
そんなことを思っているうちに、僕はうつらうつらして、いつの間にやら眠ってしまった。
気がつくと、辺りは真っ暗になっていた。
『しまった、もう夜の集会が始まる』
僕は急いで起きて、ホテルを飛び出し、教会に向かった。
両開きの扉を開くと、今度は椅子がびっしりと並べられ、先ほどどころではない、数千人の人がひしめき合っていた。
『これじゃ、あの子に会うことはできないかもしれない』
僕はそんなことを考えていた。