無意識さんとともに

https://stand.fm/channels/62a48c250984f586c2626e10

聖人A 38 僕が変わってしまうその前に

僕は大橋夫妻と親しくなった。

お金がなかったから、僕はカロリーメイトを食べるか、教会でやたら大盛りのトマトソースのマカロニを食べていたのを、気の毒がって、大橋夫妻は僕に世界で1番おいしいと看板に歌っているポークリブを奢ってくれた。僕は、それまでポークリブなんて食べたことがなかったから、比べるものがなくて、本当に世界一おいしいのかどうか、全くわからなかった。

最初の集会で出会った松沢さんに似ているあの大学生の女の子には、幸か不幸か、それ以後、二度と出会うことはなかった。神様が僕に問題が起こらないように、どこかに隠してしまったのかとも冗談ではなく思ったりした、いや、さすがに1ヶ月も滞在していたんだったら、お金の問題もあるし、日本に帰ったのだろうけど。

集会は、朝、夕方、夜と、1日に3回あったので、その度ごとに、僕は大橋夫妻と一緒に列に並び、例の札をぶら下げた人たちに祈ってもらった。

だんだん、僕の反応はすごくなってきて、どういう仕組みかわからないが、祈ってもらって仰向けに倒れると、足から腰までが上に引っ張られるように、宙に浮きそうになる。

けれど、祈りの係の人たちは僕の下半身を押さえつける。何でもSOAKINGというらしい。僕の存在を聖霊漬けにするということだそうだ。

僕の反応が激しいので、係の人たちに、"You are specil."(あなたは特別な人だ)とか"You are chosen as the vessel of Holy Spirit."(あなたは聖霊の器として選ばれている)とか言われるようになった。皆が僕のために祈りたがるようになっていた。

最初の頃にはあった、僕の中の冷たい、冷ややかに現象を見ている感覚が消えていって、僕は何だかその気になっていた。

そして、決定的な時がやってきた。

「今日は、夜の集会の後に、徹夜の祈り会があるそうです。何でも、有名な祈りの執りなし手が来るそうですよ。佐藤君、一緒に出ませんか?」

大橋さんは言う。静かで控えめな夫妻も、この熱狂の渦の中で、何だか人が変わってきて、神の力に貪欲になってきたらしい。

僕は、ちょっとたじろいだが、頭に一瞬たっちゃんの顔が浮かんで、OKした。

この祈り会が僕を決定的に変えてしまうともわからないで。

徹夜の祈り会は深夜の1時からあるそうだ。僕は、夜の集会が終わった後、ホテルに帰って仮眠した。

夢を見た、僕はほとんど思い出すことのなかった流花ちゃんのことを夢に見た。流花ちゃんと僕は、あの時のあの公園にいた。

「神様って、そんな不思議な現象の中にいる方じゃなくて、日常の当たり前のことの中に、普通の人の中にいる方じゃない?」

僕は懸命に言い返そうとするが、どうしてもできない。

流花ちゃんはそんな僕を、見下すでもなく、憐れむでもなく、ただただ優しく見つめている…