無意識さんとともに

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聖人A 17 追放

『アナテマ』とは聖絶、また呪われよという意味である。

旧約聖書によると、神はカナンの地に入ったイスラエルの民に、神は自分を信じない異教の民は男も女も子どもも容赦なく残らず殺せと言ったという。

そのことが聖絶と言われる。

そうして、キリスト教が生まれた後は、教会の教えまた聖書の教えと違うことを言う人たちを異端として破門した、その時に呪われよと言って使われた言葉である。

牧師もみんなも、お互いに顔を見合わせた。小6の子どもがこんな言葉を知っているはずはない。

たっちゃんは続けて言う。

「聖書には書いてある、わたしに従うもの、また信じるものには祝福を、従わないもの、また信じないものは呪いを置くと。

それなのに、従うものと従わないもの、信じるものと信じないものを神は区別なく扱うとは、聖書の教えとは違う。」

僕は思わず身震いした。

たっちゃんは流花ちゃんが公園で僕に言った言葉を聞いていたのか、それとも聖霊の力で読み取ったのか?

「あなたは、あなた自身で自分を神に従わないもの、神を信じないものに定めている。だから、呪いを置くと言われた主のお言葉通り、私があなたを呪うのではない、神ご自身があなたを呪うのだ」

流花ちゃんは何も言わずに黙っていた。

僕は、咄嗟に立ち上がった。そして、流花ちゃんのところに駆け寄った。

流花ちゃんの前に立って、言った。なぜそうしたのかはわからない。多分、本能的にそうしたのだろう。

「流花ちゃんは、あんなことをした僕を赦してくれた。流花ちゃんは神様がどんなお方か思い出してくれた。流花ちゃんは僕の心から重荷を取り除いてくれた」

たっちゃんはふふんと鼻で笑った。

「何を血迷ったことを言っているのか?そこにいる女は聖書に反する悪魔の教えでお前を欺いていることがわからないのか?

私にはわかっている、洗礼の時に、わざとやったのだ、この女は。お前に自分の裸身を見せて、お前を誘惑して、お前の心と身体を汚し、そうしてお前の心に憎むべき異端の教えを吹き込んだのだ」

もはや、ぼうっとしているが人のことを悪く言ったことのないたっちゃんの面影はどこにもなかった。ここにいるのは、どんな罪をも見逃さず追い詰める神、そして神の代理人としての検察官たる預言者だった。

「みなさん、どう思いますか?私には、不思議としるし(神が共にいてくれるという奇跡、異言、預言、癒しなど)がともなっている、神の霊が共にいてくださっている。この女と堕落したこの男には、何の不思議もしるしもない。

さあ、どちらを取るか、神への信仰か、それとも甘っちょろい聖書に反する人間の小賢しい考えか?」

皆はぴくりとも反応しなかった。

たっちゃんは、牧師を指差した。

「あなたはどちらを取りますか?聖書かそれとも砂糖のような人間の想像か?」

牧師は、苦しみながらも、蚊の泣くような声で言った。

「聖書を…」

「みなさん、これで決まった。彼らに賛成するものは誰もいない。

神に逆らう不信仰のものども、出ていきなさい」

たっちゃんの目は異常なまでに、爛々と輝いていた。

僕は流花ちゃんの手を取り、公民館の2階の一室から出て行った。

違う部屋の前を通ると、コーラスの練習をしているのか、歌声が聞こえてきた。

「…どうして人間は争い憎みあい、なぜ分かりあえず傷つけてしまうのか、遥かな時の中この星は生まれた そして今僕たちは出会えた…どんなこともわかり合えると生きる喜びも生きる悲しみも全て胸に抱き締めてみんなで明日へ踏み出そう…」